『終わりと始まりのトキ』
大鬼を倒して、マタムネが逝ってからもうすぐ1週間になる。
あれから葉もアンナも、一言も会話をしていない。もとより、アンナが自室に閉じ籠ってしまっているので、話そうと思っても話せないのだが…。
葉はもう少しのんびりしていたいが、もうすぐ学校が始まる。行くのは嫌だけれど、このままここに居て、祖母の木乃に迷惑をかけるわけにはいかない。
葉は、明日にでも出雲に帰ると木乃に言った。
「そうかい。お前さんがそう言うのなら私しゃ止めはしないよ。閉じ籠って出てこないが、アンナにも一応帰ることは言っておやり」
そう言って木乃はアンナの部屋を葉に教え、居間へと戻っていった。
葉は暫くアンナの部屋の前で佇んでいた。
あれから一言も喋っていないせいで、何をどう言ったらいいのかわからなかったから。ヘタな事を言うとアンナを傷付けてしまいかねない。
その場で色々グルグル悩んだが、うまく言葉が見つからないので、悩んでいても仕方がないと思い、今思っていることを素直に言う事にして、葉はアンナの部屋の襖を叩いた。
―返事はない。
だが、おそらく気付いているだろうので、葉はそのまま話しはじめた。
「アンナ、オイラ、明日出雲に帰ろうと思ってるんだ。…その…色々とごめんな。オイラのせいで嫌な思いや苦しい思いさせちまって…。でも……でも、絶対になんとかしてやるから!それだけは約束する…。何があってもお前だけは守るから。…マタムネと…そう約束したから……」
そこまで言うと、葉は何も言えなくなった。
マタムネのことを思い出して、涙が溢れてきて言葉が詰まってしまったから…。
マタムネは初めての持ち霊で、大切な…大切な友達だったのに……。
なのに自分のせいでマタムネは………っ!
葉は暫くアンナの部屋の前で泣いていた。
それでもアンナは出てこなかった。返事もなかった。
こんな自分を情けないと思ったのだろう。
葉はそのまま自分の部屋へ戻り、マタムネの残した首飾りを提げ、明日、帰る用意をした。
―次の日―
葉は、木乃に見送られ、青森をあとにした。
電車の中で、木乃から受け取ったポチ袋を眺めていたら、アンナが現れた。
正直、驚いた。もう嫌われてしまっても仕方がないと思っていたから…。
アンナは、葉に礼を言いに来たらしい。
木乃の前だと恥ずかしいので、わざわざこうしたらしい…。
(でも、その意地っ張りなところが意外とかわいいんだよな)
「……いやらしいっ!」
赤くなってふるふると震えているアンナを見て、葉はしまったと思った。
そう、アンナは心が読めるのだった。
思ったときにはとき既に遅し。ビンタが飛んできていた。
そして、もうすぐ次の駅に着くというとき、最後にアンナは言った。
「昨日は何も応えなくてごめんなさい。あんたがすごく思いつめて泣いてたから、それ以上傷つけるのが怖くて何も言えなかったの」
「アンナ…」
「約束…、守るって言ってくれてありがとう」
そうアンナが言い終わると同時に電車は駅に着いた。
「それじゃあ、あたしはここまでだから」
「お、おう…」
アンナが降りると電車は葉を乗せて出発した。
葉は、離れて行くアンナの背を見ながら打たれた頬が痛むのに涙しつつ、手を振った。
「さよなら…っ」
アンナが涙を流しながらそう言ったのが、葉に届くことはないまま………。
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拍手ありがとうございます!
昔(と言っても連載打ち切り後に書いた物だろうから約4年前)に書いてた小説をちょこっといじくってアップしてみました☆
大好きな葉アン、そして葉アンの象徴たる恐山ル・ヴォワールの葉くんが出雲に帰るときのお話。
…今思うと、よくこんな話書けてたよね、自分。
まだまだマンキンについてはリハビリが必要そうなので、ゆっくりリハビリしていきます!
それでは、メッセージのある方は以下からどうぞっ。