転生シリーズ(歌王子)

□K
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「桜田?」
『は、はい』

ぼーっとしていた俺にもう一度日向先生が声をかける

お、落ち着け
心臓がバクバクとうるさいけど、なんとか席から立ち上がる

「待ってました!」
『・・・』

立ち上がったと同時に、男子生徒が一人声を上げた

待ってましたってなに!?
やめてよそういうこと言うの!!

そんなことを思いながら言った張本人をみた

「うっ・・・」

どうやら睨んだと思われたらしく、そのクラスメイトはかすかに声を詰まらせた

「茶化すな。んじゃ、桜田、自己紹介な」

日向先生が男子生徒を黙らせてくれたおかげで話しやすい空気に戻った
けど・・・

うわあああ、みんな俺のことみてる・・・
て、当たり前か

「・・・桜田郁斗です。アイドル志望です」

そこまで言って教室内を一通り見渡す
シーンという音が聞こえそうなほど教室内が静まりかえった

しまった、無愛想すぎたか
えっと、後何言えばいいんだ!
くそ!みんなの自己紹介ちゃんと聞いとくんだった!
いやあのもう、無理!!

そう思って、椅子に座った

「え!?終わりかよ!?」

まだ何か言うと思っていたらしい来栖君が驚いたように叫んだ

「桜田、さすがにそれだけじゃ寂しいだろ・・・?みんな待ってたみたいだし、もっと喋ってやれよ」

みんな待ってた?そんなわけないでしょう日向先生
と思ったけど、呆れ顔の日向先生にそんなこと言われちゃ、座るわけにはいかないよな

再び椅子から立ち上がり、教室を見渡した

『・・・・えっと』

黙って立ってるのもおかしな話だ

何を話そうか必死に考える俺
だめ・・・全く出てこない
顔にはでてないかもしれないけど、今俺かなりテンパってます

そうしているうちに、だんだんどうやって立っていればいいのかもわからなくなってきた

両手って、どうしたらいいの?
俺今すげー直立なんだけど

そう思ってなんとなく右手を首元に持っていく

いや、特に意味はないんだけどね

「何言えばいいのかわからなくて困ってるみたいだし、俺からハニーに質問をしてもいいかな」
『神宮寺・・・』

ただただ立ち尽くす俺を見かねたのか、助け舟を出してきたのは意外にも神宮寺レンだった

「ヤダなハニー、レン、もしくはダーリンって呼んでくれよ」

何言ってんだこいつ
呼べるわけないでしょ、恥ずかしい

眉間に皺が寄ったのが自分でもわかる

いやでも、正直助かった

「無視していいぞ桜田。お、俺様からも質問したいことがあるんだ、だ、ダメか?」
「質問タイムか・・・いいんじゃねぇか?どうだ桜田、話すことないなら何人かに質問させてみるってーのは」
『助かります』

来栖くんと日向先生にも促され、俺の自己紹介は質疑応答形式で進められるようだ

「それじゃオレから・・・・そうだな・・・今までの恋愛経験、とか、聞いちゃおうかな?」
「一発目になんつー質問してんだ・・・桜田、いやなら答えなくていいんだからな」

日向先生の言う通り、一発目からなんてこと聞いてくるんだ神宮寺レン!



・・・恋愛か・・・

そういやこっちの世界に来てから俺ちゃんと恋愛ってしたことないかも

彼女がいたこともあったけど、それもなんとなく付き合ってただけだし
俺から告白したことはない
そもそも、今日まで人のこと好きになったことないかも

そっか、初恋まだってことか・・・

『・・・・恋愛は、まだちゃんとしたことない、かな』
「答えるのかよ!?」

無意識で答えていた俺に誰よりも早く突っ込んだのは来栖くんだった

「へえ、見かけによらないんだね。君みたいなの、レディ達が放っておくわけないと思ったんだけど」

ん?じゃあ、今現在進行形でトキヤが好きってことは、トキヤが俺の初恋・・・になるのかな




・・・人を好きになるってよくわからない
どういう感情が好き、なんだろう
なにがしたいと思ったら好き、なんだろう?

ずっと一緒に居たいと思ったら?
でも、友達でも一緒に居たいと思うしなあ

というか、俺が好きでも相手が俺のことどう思ってるのかが重要じゃないか

自分で言うのもあれなんだけど、傷つきやすいっていうか、チキンっていうか
他人の気持ちに敏感っていうか・・・

対人恐怖症なのかな
相手が俺のことどう思ってるのか気にしすぎて行動できない
嫌われるのが怖いから
だから人のこと本気で信用できないんだ
それなのに恋愛なんてできるわけない

『女子に、あんまり興味ないから』

興味ないわけじゃない、
きっと今まで他人に興味ない“ふり”をしてきたんだ

「「「「「「!?」」」」」」

気付くとクラス中が驚いたような顔で俺のことをみて固まっている

『??』

あ、あれ?なんで?俺おかしなこと言った???

「・・・桜田君、今の発言は大変な誤解を生みかねませんよ。訂正しておいたほうがいいのでは?」

訳が分からないよ、という顔の俺に溜息をつきながらそう言ったのは一ノ瀬トキヤだった

うわ、トキヤに話しかけられちゃった!!超嬉しい!!
じゃなくて!
誤解?

ええっと、恋愛はしたことがないって言って、そのあと・・・

右手を顎にあて考える

“女子に興味ない”だっけ??

『・・・!?あっ、ちがっ!別に、男が好きとかじゃなくてっ、なんていうかそのっ!!』

そうだよ!女子に興味ない=男が好きってとられるに決まってんじゃん!
何言ってんの俺!?なんで女子って言ったの!?他人に興味ないって言わなきゃじゃん!

いや、男が好き、で間違っちゃいないけど、ここでカミングアウトする必要ないだろ!
つうかここじゃなくてもカミングアウトなんてしねえよ!

顔!顔めっちゃ熱い!!

「!?なんだ桜田、可愛い反応できるんじゃないか」
『っ!?かわっ・・・えっ!?』

いいい今、日向先生俺のこと可愛いっていった!?
まじで!?嬉しい!
じゃなくて、もっと顔赤くなるからやめて!!

「なるほどクールに見えたのは緊張して口数が少なかったからか」
「赤くなっちゃって、かわいいなハニー」
『っ!?』

先生やめて!分析しないで!
神宮寺まで可愛いとかいうな!!
お前らその低い声で可愛いとかいうな!!

やばいめっちゃ恥ずかしい!これが顔から火が出るってやつか!
うわあもう、キャラ崩壊だよこれ!
イケメンクールキャラだったのにい!
いや別にクールキャラ目指してたわけじゃないけど!!

つうか主要キャラに可愛い言われて、ニヤケル。
やばい、今絶対変な顔してるよ俺
そう思って手の甲で口元を隠してすこしうつむく

「「「「「(か、かわいいっ)」」」」」
「ギャップ萌え、ですね」
『??』

今、七海さんが小さな声で何かつぶやいた気がした

変態ですねって言った!?ねえ、今変態って言ったの!?

終わった。俺の学園生活・・・
今日から俺は変態の札をぶら下げて生きていかなきゃいけないのか

音也・・・お前がいたならフォローしてくれたんだろうな
いや、あいつのことだから

「郁斗は昔からずっと可愛いよ!」

とか言いそうだな
俺は前から知ってましたー!みたいなドヤ顔で


「私からも一ついいですか」
『っ』

絶賛照れ顔さらし中の俺に次の質問を促してきたのは、トキヤだった

ト、トキヤに興味持ってもらえるとか。

なんか現実感なくて、逆に少し冷静になれた気がした

「おいトキヤ!次は俺様が質問するばn」
『ど、どうぞ』
「んなっ!?」

来栖君の言葉を遮ってトキヤのほうを向いた

ごめん来栖くん!今いいところだから、邪魔しないで!!

「・・・・・・歌って、もらえませんか」
『・・・・え』

歌え?今歌えって言った??

この状況で歌えだなんて!なんて鬼畜なんだ一ノ瀬トキヤ!
こんなことなら来栖君にふっとくんだった!
ごめん来栖君!

トキヤにジッと見つめられる

うぐっ・・・い、イケメンっ

「このままでいいのですか」
『・・・』

このままでって・・・
あ、もしかしてキャラ訂正のチャンスをくれたのか、な

そうだよな、このままだと、男好きの変態のままだもんな

よ、よし・・・

俺もトキヤをジッと見つめる

そして目を閉じ、一度大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出す








・・・大丈夫、歌うのは大好きだ

いつだってそう。本当の気持ちは歌にのせて伝えてきた

それはきっとこれから先も変わらない

歌だけが、俺を素直にさせてくれる

メロディに気持ちをのせて、俺の想いを伝える

心を落ち着かせて、もう一度息を吸い込む





今まで俺を支配していた緊張も羞恥も、一瞬にして消えた







『・・・・終わりまで あなたと いたい あぁ』



うまく声が出ると嬉しい、



『それ以外 確かな 思いがない』



それに、楽しい



『ここでしか 息ができない あぁ』



段々



『なにと引き換えても 守り抜かなきゃ』



体でリズムを感じる



『怖かったら 叫んでほしい すぐ 隣にいるんだと 知らせてほしい』



歌の世界に入り込む



『震えた体で 抱き合って』



そうすると、



『一人じゃ ないんだと 教えてほしい』



すごく、気持ちよくて・・・



『あの日のように 笑えなくていい だって ずっと』



ああ、俺は



『その体で 生きてきたんでしょう』



歌が 大好きだ



『架かる虹の ふもとに行こう ずっと一緒 離れないで』



俺はこの世界で、ずっと、



『あの日のように 笑えなくていい いつかきっと ほかに誰も いない場所へ・・・』










歌っていたい












K

【BUMP / OF / CHICKEN//ゼロ】



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