転生シリーズ(歌王子)

□L
1ページ/1ページ





【七海春歌side】






「・・・桜田郁斗です。アイドル志望です」

自己紹介、最後の最後でやっと彼の番です
楽しみは一番最後、ですよね!
クラスメイトの方が、待ってました!と言いたくなる気持ちもわかります

でも彼、桜田君はそれだけ言って座ってしまいました

は、早すぎます!
もう少し、彼のことを知りたかったのですが・・・

そう思っていたのはどうやら私だけではなかったようです

「え!?終わりかよ!?」

ガタッと椅子から立ち上がって、来栖君が声をあげました

わかります。わかりますその気持ち!!

まだいろいろ聞きたいですよね!
そう例えば、好きな人、とか、気になる人とか・・・

それから日向先生の言葉で再び立ち上がった桜田君でしたが、
どうやら何を話していいか困っているようです

緊張しますよね、私もついさっき何を言えばいいのかわからなくなって、一ノ瀬さんに助けてもらったばかりです

『・・・・えっと』

数秒沈黙していた彼は、困ったように自分の首をかきました

な、なんだかセクシーに見えます・・・

そんな彼に助け舟を出したのは神宮寺さんでした

「何言えばいいのかわからなくて困ってるみたいだし、俺からハニーに質問をしてもいいかな」
『神宮寺・・・』

私的には、一ノ瀬さんが声をかけてくれたほうが萌えたのですけど・・・
いえ、贅沢は言っていられません!
神宮寺さんを呼ぶ彼の声が聴けたのですから!!

「ヤダなハニー、レン、もしくはダーリンって呼んでくれよ」

キャア!!いいです!さすが神宮寺さんです!
期待を裏切りませんね!!
ウインクまでしていただいて!
あとは桜田君が照れてさえくれればっ

と思ったのですが、彼の方は期待を裏切り、眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をしました

・・・これはこれで、神宮寺さん→桜田君みたいでなんだかいい感じです

「無視していいぞ桜田。お、俺様からも質問したいことがあるんだ、だ、ダメか?」
「質問タイムか・・・いいんじゃねぇか?どうだ桜田、話すことないなら何人かに質問させてみるってーのは」
『助かります』

来栖くんと日向先生の提案で、桜田君への質問タイムが設けられました

な、何を聞いてもいいのでしょうか
わ、私は、緊張してしまって、手を上げることはできませんが・・・
誰か、私の代わりに聞いてくれないでしょうか・・・

この中で気になる人(男性)はいますか?と・・・

「それじゃオレから・・・・そうだな・・・今までの恋愛経験、とか、聞いちゃおうかな?」
「一発目になんつー質問してんだ・・・桜田、いやなら答えなくていいんだからな」

最初に質問を投げかけたのは神宮寺さんでした

やっぱり神宮寺さん!期待を裏切りません!!
男性との恋愛経験はあるのでしょうか?
そこをピンポイントで聞いてくだされば、もっとよかったんですけど!

というか、神宮寺さん、かなり彼のこと気になっているみたいですね・・・

『・・・・恋愛は、まだちゃんとしたことない、かな』
「答えるのかよ!?」

ボソッとそれでもみんなに聞こえる声で言った彼に、すぐさま突っ込んだのは来栖くんでした

「へえ、見かけによらないんだね。君みたいなの、レディ達が放っておくわけないと思ったんだけど」

神宮寺さんが見定めるように、彼を見つめながら言いました

それにしても、本当に意外です
彼の容姿でしたら、神宮寺さんの言う通り、女の子が放っておくわけないです
女の子だけじゃなく、男の子も・・・

『女子に、あんまり興味ないから』
「「「「「「!?」」」」」」

彼の放った一言に私は耳を疑いました
いえ、きっと私だけではありません

まさかこんな言葉が返ってくるなんて、一体誰が予想出来たでしょうか
案の定、クラス全員、日向先生までもが口を開けて驚いた顔をしている状態です

みなさんが驚いているということは、今のは幻聴ではないのですよね?
私の妄想の中の彼が言ったわけではないのですよね!

・・・女性に興味がない・・・

それはつまり・・・

そういうことでいいのですよね!

本当は何も知らないノンケな彼を少しづつ開発・・・というのが理想の形だったのですが、

男同士のいろはを知っている彼が一ノ瀬さん達を誘惑・・・

こちらに路線変更しましょう!!

もう、素敵すぎます!妄想がとまりません!
ですが、ひとつ後悔したのは、女子に興味がないといった時の一ノ瀬さんの表情を見ていなかったことでしょうか・・・

『??』

嬉しい告白すぎて顔がにやけてしまいそうです
必死に顔を引き締めて、彼の顔を見てみました

どうやら彼は自分の言ったことを理解していないようで、きょとんとした顔をしています

「・・・桜田君、今の発言は大変な誤解を生みかねませんよ。訂正しておいたほうがいいのでは?」

そんな彼を見かねて溜息をつきながら言ったのは、なんと、一ノ瀬さんでした

桜田君と一ノ瀬さんの記念すべき初絡みの瞬間です!
目に焼き付けておかないといけませんね!

一ノ瀬さんにそう言われた彼は、顎に手を当て少し考える素振りをした後

『・・・!?あっ、ちがっ!別に、男が好きとかじゃなくてっ、なんていうかそのっ!!』

両掌を顔の前でぶんぶんと振り、顔を赤らめながら違うと主張する彼

なっ!なんですかそのリアクション!

今までの彼からは想像もできないような行動に、すごく驚きました
なんてカワイイのでしょう!

「!?なんだ桜田、可愛い反応できるんじゃないか」
『っ!?かわっ・・・えっ!?』

驚いた顔の日向先生が桜田君に向かって可愛いとおっしゃいました

こ、これは、日向先生×桜田君のフラグが立ったということでいいでしょうか!

「なるほどクールに見えたのは緊張して口数が少なかったからか」
「赤くなっちゃって、かわいいなハニー」
『っ!?』

恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせて声を詰まらせる桜田君

日向先生と神宮寺さんの言葉に全力で照れているようです

なんだか、二人で彼を攻めたてているようで、ドキドキします

見られているのが耐えられなくなったのか、口元に手をやってうつむいてしまいました

か、可愛いです
そう思っているのはきっと私だけではないはず・・・

「「「「「(か、かわいいっ)」」」」」

これこそまさに、

「ギャップ萌え、ですね」
『??』

一瞬桜田君が私の方をチラッと見ました

どうしましょう
心の中でつぶやいたつもりだったのですが、どうやら声に出ていたようです

変な子だと思われたでしょうか・・・

「私からも一ついいですか」
『っ』

未だ顔を赤くしてうつむいている彼に、次の質問を投げかけたのは、一ノ瀬さんでした

一ノ瀬さん・・・やっぱり彼のことが気になるんですね!

一体赤面中の彼にどんな恥ずかしい質問をしてくれるのでしょうか!
私、一ノ瀬さんは生粋のSだと思うのです

「おいトキヤ!次は俺様が質問するばn」

そんな一ノ瀬さんに口を挟んだのは来栖君でした

来栖君、今は一ノ瀬さんがっ
確かに来栖君も捨てがたいですが、やっぱり大本命は一ノ瀬さん×桜田くんなのでっ、

空気を読んでいただけないでしょうか・・

『ど、どうぞ』
「んなっ!?」

と思いましたが、どうやら心配することはなかったみたいです

彼も一ノ瀬さんのことが・・・?
もしかしたら、すでに相思相愛かもしれません!




「・・・・・・歌って、もらえませんか」
『・・・・え』

一ノ瀬さんの口から出てきた言葉はすごく意外な言葉でした

この状況で、うた・・・ですか・・・
さすが、Sに定評のある一ノ瀬さん

ですが、この場でこれは・・・少し可哀想な気がします・・・

わ、私だったら気絶してしまうほど緊張すると思います

「このままでいいのですか」
『・・・』

一ノ瀬さんのその言葉を聞いて、先ほどよりかなり冷静に戻られたようです

そのまま一ノ瀬さんも、彼も、無言でジッと見つめあって・・・
まるで、目だけでなにか会話をしているみたい
誰も邪魔できない雰囲気です

そして彼は目を閉じ、一度大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出しました

さっきまで赤面していた彼も、もうそこにはなく
落ち着きを取り戻した、クールな彼に戻っていました






『・・・・終わりまで あなたと いたい あぁ』



教室中に彼の声が響き渡りました

アカペラで歌を聞くのは、今日二人目です

とてもきれいな声・・・

先ほどまでの彼とは全く違う
堂々とした歌声

歌声を聞くのは初めてです

一ノ瀬さんの時も思いましたが、とても上手で、ずっと聞いていたくなる、そんな歌声です


ですが、一ノ瀬さんと違うのは


聞いているだけで、歌の世界に入り込む感覚


そしてそれを体の全てで表現している彼


切なくて、苦しくて、優しくて・・・


それでいて、すごく楽しそうで、


胸が熱くなります


この込み上げてくる感情はなんでしょうか




『その体で 生きてきたんでしょう』




彼の心の声を聴いた気がして、


彼のその優しい声に、


そっと語りかけてくれるような感覚に、


私は、無意識に涙を流していました



『あの日のように 笑えなくていい いつかきっと ほかに誰も いない場所へ・・・』




彼が歌い終わっても、一ノ瀬さんの時のように拍手はおきませんでした

そのかわり、私のように涙を流している方がたくさんいました
胸を打たれたような表情で、誰もがジッと彼を見つめていました


おばあちゃん、私はすごい世界に足を踏み入れてしまったのかもしれません

ここで、やっていけるのか、本当はとても不安でした

彼の歌を聞いて、それが増したのも事実です

けれど、大丈夫だと、そういってくれたのは
まぎれもない彼です

いえ、直接言っていただいたわけではありません

先ほどの歌で、私は彼に元気をもらいました

歌詞のとらえ方は人それぞれです


わたしは、ここにいても、いいのだと


そう聞こえました。




私は彼に、

桜田郁斗さんに


私の作った曲を、歌ってもらいたいです







ですがその夢は、叶いそうにありません・・・





L



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ