転生シリーズ(歌王子)

□M
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ああ、気持ちよかった
ホント、歌ってるときが一番気持ちいい

ふう、と息を吐き、閉じていた目を開ける

「「「・・・・・」」」

え・・・っと・・・

なにこの雰囲気・・・え

シーンとした教室内

みんなが俺のことをみて、あっけにとられたような、ぽかんとした顔をしている

トキヤの時はたしか、拍手喝采だったような・・・

俺もそれを期待していたのだけど

思ってたのと全然違うんですけど

『・・・あ』

恥ずかしい!俺かなり自分に酔ってた!!あああああやっちゃったよもー!!
なんで歌おうと思ったんだよ俺!断れよ!
そうだよな、トキヤの次に俺の歌聞いて拍手なんかおこるわけないじゃん!!

俺の実力もここまでということですね
自信喪失・・・

というか、歌えって言っといて、なんのフォローもないってどういうことなんだ一ノ瀬トキヤ!
俺は、お前がそんなやつだとは思わなかった!がっかりだよ!
ドSめ!この、ドS!!打たれ弱いんだから!泣くぞ俺!!

でも本人にそんな文句を言えるわけもなく、チラッと視線を送ることしかできなかった

「桜田くんっ」
「素敵だったよ郁斗!!さすが俺のパートナー!!みんなにはお前の良さがわからねえんだな!」

トキヤがなにか言いかけたが、それを遮って秋矢が立ち上がり俺に拍手を送った

「おいおい!お前だけわかってるみたいに言うなよ!俺様だって、スゲーって思ったよ!!」

次は来栖君が立ち上がり秋矢に食って掛かった

あれ、なんか、空気が・・・

「ふーん??ま、郁斗の良さを一番理解できるのはこの俺。理解していいのもこの俺だけ」
「はあ?」

そういって俺の傍までやってきて俺の肩を抱き、トキヤに鋭い視線を向けた

「だから、気安くこいつに歌わせないでくれっかな、一ノ瀬トキヤ」
「・・・」

え・・・なに・・・なにいってんのこの人・・・
笑顔で何言ってんの

「誰も、こいつの良さなんてわからなくていい・・・」

クラス中が秋矢の言葉に耳を傾ける
来栖君も、神宮寺も、トキヤも、日向先生も、もちろん俺も

「俺だけ、しってればいいんだ」

最後の秋矢の言葉はきっと俺にしかきこえていないだろう

どうして、秋矢がそんなこというのか全く分からない
俺と彼は初対面

なんでそんな苦しそうな顔するのか・・・わからない

俺はいったい、この状況をどうすればいいの

この、凍った空気を、一体どうすればいいの!!
俺ここでなんて言ったら正解なの!!

歌い終わってから俺、まだ何にも喋れてないよ!

「何故そんなことを言うのですか?君は、彼のなんなのですか」
「あ?お前には関係ないだろ、一ノ瀬トキヤ」
『・・・あ、っと・・・』

ちょちょちょっ、なんでそんな喧嘩腰なの二人とも!

あ、あれか!

(「あなたの特別は私ではなかったのですか」「お前が俺をパートナーに選ばなかったんだろうが」「仕方ないでしょう。学園長が決めたことなのですから」「それでも俺はお前がよかったんだよ!」「それは私もだというのに、どうしてわからないのですか!」「トキヤ・・・」)

とかいう嫉妬的なそれか!
やば、なんだこれ、萌えるじゃないか!!
でも、俺を巻き込むのはやめてもらいたい。まじで

「ちょっと、ちょっと二人とも、ハニーがこまってるじゃないか」
「お前もよくわからないよなー、本気じゃないなら郁斗に近づかないでもらえるかな?」
「・・・」

この人はどうしてそんなに敵を作るようなことを言うんだ!
俺は、みんなと仲良くやっていきたいのに!
そんなこといったら、俺もクラスで浮いちゃうじゃん!!

「なあーんて!困った顔も可愛いなあ郁斗!歌、すごかったよ、さすが俺の選んだパートナー!みんな感動して何にも言えなかったんだよ!な?そうだろ?」
「・・・あ、ああ」

秋矢の言葉にクラスのみんながザワザワしながらもコクコクと首を縦に振った

「これから俺がもっとお前を輝かせてやるから、期待してろよ」
『・・・』

そう囁いて、俺を席に座らせたあと、自分も席に戻って行った

「なんなんだ?」
「のろけ?」
「俺の物宣言か?」
「でも、すごい笑顔だし」
「拍手起きなかったから、冗談言って場を持たせたとか?」
「まあ、秋矢だし、そうかもな」

次第に教室中が騒がしくなる

「まあ各々言いたいことはあるだろうが、残念ながら時間だ。藤波、お前も、少しパフォーマンスがすぎるぞ」
「すみませんセンセー!」
「やっぱりわざとかよー!ビビったっつーの!」
「やり過ぎだぞ秋矢―!」
「ごめんごめんっ!」

唇を尖らせて言う秋矢に、クラス中から笑いが起きる

なんだ、やっぱり教室の雰囲気をよくするためにわざと・・・

「桜田も、ありがとな。先生もいいと思うぞ、お前のうた」
『え!あ、ありがとうございます』

急に振られて慌てる
はっ、日向先生に褒められた!
普通に嬉しい!
よかった、そんなに下手くそじゃなかったんだ!一安心っ!

「さて、全員自己紹介終わったな。今日はこれで以上だ、この後寮に移動して、同室者と顔合わせ、それから荷物の整理だ」

はあ、終わった

俺の不安要素だった、パートナーも決まって、自己紹介も何とか終わった
あとは同室者か・・・

アイドルコースの奴と一緒になることってあるのか?
クラス関係ないって言ってたし、出来ることなら、音也と一緒がいい・・・

けど、そんなうまいこと行くわけがないので、音也を期待するのはやめよう

カバンから部屋のカギを取り出し、握りしめる

せめて、話しやすい人でありますように!!!





「んじゃ、移動!」

日向先生の声で皆わらわらと教室から出ていく

自己紹介の時のお礼を神宮寺に言おうと思ったんだけど、すぐに女子と一緒に教室を出て行ってしまった
それに、来栖君も、背の高い男子生徒に先ほど連れ去れていかれた

それから、秋矢。
彼にもいろいろ言いたいことや聞きたいことがあったのだが、教室内を見渡しても彼の姿はない
なんだよみんな、行動が早いよ

俺も行くか・・・・一人で・・・
そう思って席を立った時、

「桜田君」
『・・・一ノ瀬トキヤ』

俺の目の前に一ノ瀬トキヤが立っていた

うわっ!!本物!近い!イケメン!!

ここまで至近距離で彼を見たのは初めてなのだが、本当に整った顔をしている

「はあ。フルネームで呼ぶのはやめてもらえませんか」
『っごめん・・・一ノ瀬君・・・なにか?』

ため息をつきながら言うさまも、なんだか色っぽくて、ありがとうございますって感じです
ホントは名前で呼びたいんだけど・・・いきなりは無理そうだ
そういう馴れ馴れしいの嫌いそうだし。何より、俺も苦手だ

ていうか、やばい、めっちゃ緊張する!!
何言われるんだろ・・・

「先ほどは、ありがとうございました」
『??』
「歌。歌ってくださって」
『あ、ああ・・・』
「大変素晴らしかったです」
『ホント!!よかった・・・ありがとう!』

うわあ!!一ノ瀬トキヤに褒められた!!!
どうしよう!すごい嬉しい!!
だって!あの一ノ瀬トキヤだよ!
憧れの!本人の口から直接褒め言葉が聞けるなんて!
今、死んでもいい!

歌い終わった直後は何も言わなかったから、なんだこいつとか思ったけど、なにこの時間差攻撃!
すんごい飴と鞭じゃん!
やっぱ出来る男だよ、一ノ瀬トキヤ!!

嬉しすぎて、素で喜んでしまった
頬が緩むのがわかる

「!・・・君の歌には私にはない何かがある。ですが、私は君の歌、好きではありません」
『!?』
「君の歌は聞き手を選びます。皆が皆、あの感情を押し付けるような歌い方に感動するわけではないと、覚えておいてください」
『っ・・・』

上げて落とされたっ・・・
ついさっき褒められて、舞い上がってたところなのに、今は地獄にいる気分


感情を押し付ける・・・・か・・・


なんでそんなこと言うの
なんでそんな言い方するの
アドバイス?なの?

な、泣くぞ!

「桜田君、」
「酷いです一ノ瀬さん!!」
『??』

無意識にグッと拳を握っていた俺
トキヤがなにか言いかけたところで、背後から女の子の声が聞こえた

「君は・・・」
『七海、さん』

振り向いた先にいたのは、カバンを胸に抱えた七海春歌主人公様だった
まさかここで彼女がくるとは思わなかった・・・

「私は、桜田さんの歌、感動しました!胸の奥に響いてきて、涙が出ました!そんな素敵な歌をどうしてそんな風に言うんですか!」
「ですから、聞き手を選ぶと言っているんです」
「確かに一ノ瀬さんの歌もとても素敵でした・・・でも今の私の心に響てきたのは桜田さんの歌です」
「っ・・・君がそうだとしても、皆がそうとは限りません。感情を押し付け、完璧ではない物を誤魔化している。私の歌は完璧です、誰にも負けるつもりはありませんので」
「勝ちとか負けとか、そういうっ」
『七海さん!!』
「っ、桜田さん・・・」
『一ノ瀬君の言ってることも間違いじゃないから。それに俺は七海さんの言葉素直に嬉しかったよ、ありがと』

全くこの主人公は・・・
泣きたいのは俺の方だというのに
なんで七海さんが泣くんだよ
俺なんかの為に・・・

惚れそうだよ!ハイスペックが!!

七海さんの頬を流れる涙をハンカチでそっと拭いて、笑顔でお礼を言う

笑顔なんて今の俺には出来るわけもないので、うまく笑えているかどうかはわからないが

『そもそも君たちパートナーなんでしょ?パートナーの歌を一番好きにならないで、いい曲なんて書けないと思うな俺』
「・・・桜田さん、私・・・」
『俺のこと庇ってくれたのはわかってるよ。でも俺なんかのせいで、七海さんと一ノ瀬君の曲をダメにしたくないんだ』

俺なんかをかばって喧嘩して、この二人の曲に支障が出たら、俺ホント立ち直れないって
罪悪感感じちゃうよ!

「・・・・ごめんなさい」

ぎゅっと目を閉じうつむいてしまった

うわあああ、どうしよ、どうしたらいいの!
ちょっと偉そうなこと言い過ぎたかな!
出しゃばりすぎたかな!

『あ、謝らないでよ!俺こそごめんね』

ほんと、図々しいこといってごめんなさい!

「・・・・私は、君のそういうところが嫌いです」
『・・・・・っ』

七海さんの肩に手を置き焦る俺に、一ノ瀬トキヤは眉間に皺を寄せながらそう言った

はは、最初は好きじゃないだったのに、ついに嫌いになっちゃったよ
しかも今回は歌に関してじゃないよ。俺自身を嫌いっていったよ

俺は、トキヤのこと、好きなのになあ・・・
歌も、トキヤ自身も・・・

告ってないのに振られるってこういうことか

あああああ、なんだこれ、涙でそう!
恋人にはなれないにしても、せめて友達!と思っていた俺にはダメージがデカすぎる
この状況で仲良くとかもう、無理じゃん
そういうところが嫌いって、どういうところ!わかんないんだけど!

ていうか、一方的に言われすぎて俺まだちゃんと会話らしい会話もしてないよな
だって、言い返せないんだもん・・・
今後もトキヤとはずっとこういう感じなのかなあ・・・

嫌われてたって知るか!絶対振り向かせてやる!

くらいの度胸が俺にあれば・・・
あるわけないんだけど

「私はっ」
「郁斗―!!!あれ、トキヤ?」

もう一度トキヤがなにか言いかけたところで、教室の入り口から俺を呼ぶ声が聞こえた

『音也!』
「なになに!2人仲良くなったの!?あれ!君、電車の中で会った子!!ちゃんと学校つけたんだねえ!!」

遠慮なく教室に入ってきて七海さんを見つけるなり笑顔で話しかける音也

お、お前って奴は・・・この重苦しい空気がわからないのか!
空気クラッシャーめ!

「あああ!あのっ!朝はありがとうございました!」
『お、音也・・・』
「え?なに??」

うん、わかってないみたいだな

『いや、なんでもない・・・』
「??」
「私はこれで失礼します。七海さん、寮へ行く前に渡したいものがあります。それからパートナーとして、君に話しておきたいことも」
「は、はい・・・あの、さっきは、その・・・すみません・・・」
「・・・いえ」

えっとこれは、仲直りできた・・・のかな?

あとは、二人の作る曲が素敵なものになると・・・いいな・・・

「???ねえ、あの二人、なんかあったの??」

流石に何かあったと気が付いたのか、こそっと耳元で聞いてくる

『音也が気にすることじゃないって』
「・・・そっか・・・で、なんで郁斗は泣きそうなの?」
「!?」

俺の顔を覗き込みながら、若干首を傾けて聞く音也

『は!?誰がなんだって!』

なんで俺が泣きそうだってわかったんだよ!!
必死に顔に出ないようにしてたのに!!

案の定トキヤは音也の言葉に驚いた顔をしている
ほらみろ!音也が言わなきゃ気づかれなかったのに!!
この!空気よめ!ばか!!

そう思って、思いっきり音也の頬っぺたをつねる

「いててて!!気のせいならいいんだって!!」
『ったく。でたらめ言うな』

チラッと俺の方をみたトキヤだったが、何も言わずに七海さんと一緒に教室を出て行った

あああ、感づかれてないといいけど・・・

「・・・ね、一緒に寮行こうよ!今日はもう自由行動なんだしさ!」
『・・・ん、そうしよ』

明るい笑顔で言う音也
そんな笑顔を見て、肩の力が抜けるのが分かった
音也の笑顔にはいつも助けられる

「んじゃ郁斗の部屋からいこーよ!」
『荷物整理手伝えよ』
「りょうかーい!」

カバンを肩にかけ、俺は音也と一緒に寮へ向かった


そういや、同室者もう来てるかな・・・








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