転生シリーズ(歌王子)

□㉑
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『二時・・・か・・・』

不意に目が覚めて、ベッド脇の時計に目をやる

知らない間に寝てたみたいだ

喉乾いた

そう思って、ベッドからおり、冷蔵庫へ向かう

湯あたりしたときに飲んだミネラルウォーターの残りでのどを潤し一息つく

『なんか、変に目、覚めちゃったな・・・』

動いたのがよくなかったのか、目が覚めてしまった

もちろん秋矢はぐっすり眠っている

『どうしよっかな』

今ベッドに戻っても、眠れる気がしない

そうだ、少し、風にあたってこよう

中庭なら、この時間でも行けたよな??

敷地内なら、いつ行動してもよかったはず・・・

そう思って俺はTシャツの上に長袖のジャージを羽織って部屋を出た

『うーん、ちょっと寒いかも』

肌をなでる風がまだ少し冷たい

寒いのは苦手だ

『早くあったかくならないかなあ』

暑すぎるのもやだけど

中庭にあるベンチに腰掛け、空を見上げる

『きれい・・・』

雲一つない夜空には、たくさんの星がキラキラと光ってる

『空とか眺めるの久々だなあ』

どれがなんていう名前の星かはわからないけど、星を眺めるのは結構好きだ
心が落ち着くっていうか、穏やかな気持ちになれるっていうか
自分の悩みなんて、ちっぽけなものなんだなっていう気持ちになる

『悩み、か』

今日から早乙女学園での生活が始まった

一日だけでいろいろありすぎて、本当に疲れた

人前で歌ったし、パートナーも決まった

いずれ話すだろうと思っていた、神宮寺レンや、来栖翔、四ノ宮那月、七海春歌・・・
うたプリのキャラとも会話が出来た

早い段階で音也に会えたのは本当に救いだった

それから

『一ノ瀬トキヤ・・・』

彼には嫌われてしまったようだ

『仲良くしたかったのになあ』

何がいけなかったんだろう
俺の歌、嫌いだって言ってたな・・・

『歌わなきゃよかった』

でも、歌えって言ったのはトキヤだし

七海さんは好きだって言ってくれた

『てか、そうか・・・七海さんはトキヤルートってことか』

じゃなきゃパートナーは別の人だったはず

『まあ、別に・・・いいけど』

俺がこの学園に来たのは、アイドルになるためだ

そりゃ、みんなと仲良くできたらそれに越したことないけど・・・

最初は不純な動機だったかもしれない

でも今は違う

『俺は、この世界で、絶対アイドルになるんだ』

そうじゃないと、俺がこの世界に生まれた意味がきっとなくなってしまう

『はあ』

空を見上げたまま、溜息をついた

弱気になってる暇なんてないのに

『いいんだよな、ここにいても・・・』

なんで俺はこの世界に来たんだろう
何のために
俺はここで、何をすればいいの??

アイドルになることが、ホントに正しい選択なのかな

『助けて・・・』

誰か、答えて・・・

急に物凄い不安が心を締め付けた

一度弱気になると、次々と不安が溢れてくる

とめられない

俺は、ここにいても・・・

ここで歌っていてもいいのか




『この、声に・・・ありったけの気持ちを・・・』



ぽつり、とつぶやくように声を絞り出した



『この声に 閉じ込めて 唄うよ』



目を閉じて、心の中に浮かぶ歌詞をメロディにのせる



『この唄を あの空に 響かせて 少しでも 優しい雨 降らせたい』



トキヤに言われた
俺の歌は、感情の押し付けだって

それでも俺は・・・こういう歌い方しかできない



『どれだけの 心たちと 解り合えなかったとしても』



俺は、歌で人を元気にさせたい
俺の気持ちを伝えたい
暖かい気持ちになってほしい
唄には、いろんな力があると思うから



『忘れないでほしい 独りきりになっても
 優しい雨に打たれ この唄を思い出して?』



じわっと胸の奥が熱くなり、涙が滲んだ



『この声を その胸に 響かせて
 少しでも 優しい笑顔 見つけたいのさ』



みんなに笑顔になってほしい

俺の声を、届けたい・・・

いつの間にかベンチから立ち上がり空を見上げて唄っていた

すこし、すっきりした

ああ、泣いちゃうとか
自分に酔いすぎだっつーの

こんなとこ、誰かに見られたら完全に痛いやつ、だよ

目元をゴシゴシとこすって、鼻をすする

俺も、いろんな歌に力を貰ってきた
この世界でも、前の世界でも

今度は俺が、この世界で、力を与える側になりたい

元の世界を恋しく思うこともある

大切な人がたくさんいたから

その人たちのこと思ったらまた涙が溢れてきた

この世界で、何不自由なく暮らしてきて
何の未練もないつもりだった

『感情、閉じ込めてただけなんだよな』

会いたい・・・みんなに

『会いたい』

再びベンチに座り込み、頭を抱えた

『会いたい、よお・・・』

俺を支えてくれてた、大好きな人達に

誰もいない中庭で、声を殺して泣いた

誰もいない、から

今だけ

いいよな

















【/高橋/優 この声】



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