転生シリーズ(歌王子)

□㉒
1ページ/1ページ






ベンチに座ったままスンスンと鼻をすする

あぁあ、これ、明日目腫れるやつじゃん
どうしよう

ハンカチも持ってきてないし
涙をぬぐうものが何もない

自然に収まるのを待つしかないか

「これを」
『!?』

ふいに頭上から声がした
驚いて顔をあげると、目の前には差し出された薄水色のハンカチ

『あっ・・・えっ』

ハンカチからさらに視線を上にあげると、そこには、綺麗な青い髪の男の人

涙で視界が滲んでよく見えないが、この人知ってる・・・
確か・・・

『聖川、真斗・・・?』
「ん?どこかであったこと、あるか?」
『あっ!!いや!あのっ!』

しまった。また声に出してしまった

というか!今顔ぐちゃぐちゃじゃないか俺!

『うわっ、あっあっ、あのっ、これは、ちがくてっ!』
「おちつけ」

ハンカチを受け取ることも忘れて焦る俺
両腕で必死に涙と鼻水だらけの顔を隠す

『すいませんっ、こんな、かおでっ』

相変わらずぐずぐずと鼻をすすりながら、とにかく謝る
一体なんで謝っているのか自分でもよくわからないが

目の前に現れた人物にかなりテンパっていることはわかる

「だから落ち着け、俺が泣かせているみたいではないか」
『っ・・・』

ぐっと左腕を取られ、無理矢理ハンカチを握らされる

手、おっきいな・・・
俺の手首が細いのか?

「ほら、涙を拭け」
『す、すいません・・・ありがとうございます』

にこりと優しく微笑まれた
この人、結構冷たい性格なのかと思ってたけど、そうでもないみたい・・・

握らされたハンカチで目を抑える

「あまり強くこするな。赤くなるぞ」
『あ、はい』

言われた通り、そっと目にハンカチを当て直す

まさか、誰かに見られるなんて
しかも、その相手がうたプリのキャラときたもんだ
どんだけキャラとの遭遇率高いんだよ
深夜だぞ

「その、なんだ、見るつもりはなかったんだ。たまたま眠れず、夜風にあたろうと思って来てみたら・・・歌が聞こえて・・・その」

俺の隣に腰掛けて、ぽつぽつと話す聖川さん
ハンカチの隙間から少し盗み見ると、明後日の方に視線を向けながら、少し眉間に皺をよせていた

もしかして、いや、もしかしなくても、気まずいのかな
そうだよな。俺が聖川さんの立場だったらどうしていいのかわからない

衝動的にハンカチを差し出したはいいものの、この後どうしようって感じだろうな

分かるよその気持ち

夜風にあたりに来ただけなのに、面倒事に巻き込んでごめんなさい

ん??

『うた・・・?聞いてたんですか』
「す、すまない」

うっそ。聞かれてた!?
どこから!?

『さ、最初から・・・?』
「あ、ああ」
『・・・・』
「・・・・」

2人して地面とにらみ合う

え・・・
スゲー長い間立聞きしてたの!?
泣く前に声かけてくれればよかったのに!恥ずかしい!!
誰もいないと思ったから俺っ
あー!!恥ずかしい!!

「故郷を愛しく思うのも無理はない。ここでの生活は大変そうだからな」

故郷・・・??
もしかして、【会いたい】って呟いたのも、聞こえてたのか

「だが、自分で選んで、望んでここへ来たのだろう。目には見えずとも、故郷の友人も応援してくれているはずだ」

確かに、この学園には俺の意思できた
でも、この世界には望んできたわけじゃない

そんなこと、俺にしかわからないことなんだけど

元気づけてくれてるつもりなんだろうけど
今の言葉でまた涙が溢れてきた

『ううっ』
「す、すまない少し、強く言い過ぎたか!それとも、望んでここへ来たわけでは、ない・・・のか?」

フルフルと頭を振る

やばい聖川さんめっちゃ困ってるよ
ひっこめ涙!

「・・・」
『!?』

不意に頭に掌の感触
そしてそのまま、隣に座る聖川さんの胸に引き寄せられる

はっ!えっ!ちょっ!どういう展開だよ!?

「俺は、お前の歌、よいと思う。散歩の足をとめるほどに、聞いていたくなる声だった」
『・・・っ』
「切ないという感情が溢れていた。その感情が俺の中にも流れ込んで来た。だからいてもたっても居られず、声をかけた」
『・・・』
「なんとか、したいと、そう思ったんだ」
『・・・』

顔は見えないけど、心臓、すごく早い・・・緊張してんだ
なんだこの人、人に関心とかないキャラかと思ってたのに
見かけによらず、熱い人だな・・・








そして少しの間、静かに頭をなでてくれた

「落ち着いたか」
『はい』

そういうと、そっと俺から距離をとる

照れ屋か

『あの、ハンカチ、洗って返しますので』
「ああ」
『・・・』
「・・・」

気まずい!!

『あの・・・』
「もう一度、歌ってくれぬか」
『え』

俺の言葉に被るようにそういった
相変わらず明後日の方を見たまま

「同じアイドル志望として、参考にしたいというか・・・」
『・・・』
「っ・・・すまない、単純にもう一度聞きたいのだ」
『っ!?』

急に俺の目を見て言う聖川さん

びっくりした
というか初めて目あった

やっぱ、イケメンだなあ

「・・・、む、無理にとは」
『無理じゃない!・・・です。こんなやつの歌でよければ』

せっかく目を見てくれたのに、もう逸らされてしまったことに焦り、慌てて返事をした

こんな状況で歌うのは死ぬほどプレッシャーだけど
俺の歌聞きたいって言われて、普通に嬉しかったし

歌ってもいいかな、なんて

『んと、じゃあ・・・』

さっきの歌はちょっと、今の気分では歌えないから別の歌を歌った

目を閉じて静かに聞いてくれている聖川さん

なんだか、すごくくすぐったいけど

すごく嬉しい

「素晴らしいな」
『あ、ありがとう』

そう言ってすごく嬉しそうに笑う聖川さん

お、おい・・
めちゃくちゃ可愛いじゃん
なんだこれ、キュンってした!

『今度は、君の歌も聞きたいな、なんて・・・』
「俺のは、まだ人に聞かせられるような歌ではない」
『お、俺だってそうだよ!』
「ん?おれ?」
『ん?』
「ん?」
『・・・』
「・・・」

お互い顔を見合わせる

『もしかして、女だと思ってます?!』
「もしや、男なのか!?」

そして同時に声を荒げた

『はぁ!?どうみても男だろ!こんながたいのいい女子いないだろ!』
「がたいがいいだと!どこがだ!華奢ではないか!」
『きゃっしゃっ、、、君の方が華奢だっつうの!』
「俺は華奢でなどではない!それに、歌声も高く澄んでいた!」
『キーの高い歌だって歌えるようにしとかなきゃいけないだろ!』
「それに髪も長めで、そんな恰好をしていたら、誰でも女だとっ!」
『そんな恰好って、ただのジャージなんだけど!』
「ピンクではないか!?」
『男がピンク着ちゃだめなのかよ!!』
「はっ・・・」
『はぁっ・・・』

顔を突き合わせ、息を荒げる俺たち

あれ、俺一瞬ナチュラルにすごい褒められた気がするっ

というか!まじで女だと思われてたわけ!?
いや、それに関しては別に嬉しくないわけじゃないんだけどね

じゃあ、なんでこんなにヒートアップしてんだ??

聖川さんが急に大きな声だすから
顔真っ赤にして俺たちは一体なにを・・・・

冷静に今の状況を見るとなんだかすごく・・・

『ふっ・・・はははっ』
「っ」

笑えてきた

『顔、真っ赤っ・・・ははっ』
「貴様も、真っ赤ではないかっ。涙まで浮かべてっ」
『これは、さっきまで泣いてたからだろ』
「そうか」

2人して笑いをこらえながら会話をする

なんだろ、こういう風に誰かと笑いながら話すのって久々かもしれない

「いや、すまない。まさか男だったとは」
『騙してたわけじゃないけど、ごめん』
「俺はAクラスの聖川真斗だ」
『俺はSクラスの桜田郁斗。よろしく、聖川君』
「・・・・名前でいい」
『真斗ね。俺も郁斗で構わないよ』
「ああ」

うわあ、真斗だって
俺絶対聖川さん呼びしかできないと思ってた
というか、思っていたのと大分キャラが違う

だってもっと、堅物で物静かで、笑ったりとかしない人だと思ってた
前世ではビジュアルと歌しか知らなかったから

「また聞かせてくれるか」
『今度は真斗の聞きたい』
「む・・・それはもう少し上達してから・・・」
『ははっ、楽しみにしてる』

なんだろ、自然に笑える

「っ」
『ん?』
「い、いや・・・」

さっきまで笑顔だったのに、また急に顔を背けられてしまった

あ、ちょっと調子にのって馴れ馴れしくし過ぎたかな・・・
やっぱり急に仲良くなるのは無理、か
このへんで引いておかないと

『俺、そろそろ部屋に戻る。寒くなってきたし』
「そ、そうか。俺もそろそろ戻るとしよう」
『ハンカチ今度かえす』
「ああ」

そう言い残して真斗は中庭を去って行った

今日はほんと、大収穫だな

ふわぁっとあくびをして俺も部屋に戻った

なんだか少し心も軽くなったし
うん。ぐっすり眠れそう







.



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ