転生シリーズ(歌王子)

□㉓
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「郁斗」
『・・・』
「郁斗!!!!」
『!?』

大音量で自分を呼ぶ声にビックリして夢から覚めた

『・・・そんな大きな声出さなくても、他に起こし方あるだろ』
「例えば?」
『え、えと・・・』

そ、そういわれると、思いつかないけど・・・

「キスでもすればよかったか?」
『はぁ!?』
「んな顔すんなよ、冗談だ」
『・・・』

朝から心臓に悪いから冗談でもそういうこと言わないでいただきたい

「朝弱いのか?」
『割と』
「ふーん。それも改善点だな」

そういう秋矢は朝が強いみたいだ

ばっちり着替えて、髪のセットも終わっている様子

というか

『今何時?』
「5時」
『5時!?はや!?』

えっと、結局寝たの何時だったっけ・・・
部屋に戻ってきたのが3時近かったはず
眠いわけだ・・・

「睡眠時間2、3時間なんて、仕事始めたら当たり前だぞ」
『う・・・ってか、え?なんで俺の睡眠時間知ってんの』
「夜中いなかっただろ。俺が知らないとでも?」
『お、起きてたのか』
「どこ行ってたかまでは知らないが、あまり夜中にうろうろするな。危ないだろ」
『敷地内だから別に危なくわ・・・』
「・・・んじゃお前、こうされたら逃げれるのか?」
『っちょっ!?』

ベットに腰掛けたまま話していた俺に近づき、両手首を掴みそのまま体重をかけてきた
秋矢の重みに耐えきれず、俺はそのままベットに倒れこんだ

「ほらな?」
『はなせっ!』
「自力で抜けてみろよ」
『っ!・・・くっ』
「おいおい、これが全力とかいうなよ?」

これが全力だよ!悪かったな非力で!
悔しいけど、どれだけ力をいれても俺を抑える秋矢はびくともしない

そりゃ、体格は秋矢の方がいいけど
まさかここまで何もできないとはっ
情けない!もっと力つけないと!

「・・・片手でもいけるんじゃねえの?」
『なっ!?』

両手で押さえていた俺の手首を、片手でひとまとめにされる

「まじかよ」
『くっ・・・』

な、なんて、屈辱っ
まさか、片手にも負けるなんて
本格的に筋トレしよう、そうしよう

『も、わかったから、はなせ、痛い』
「・・・」
『秋矢っ!』

解放する気配のない秋矢に、身を捩りながら抗議をする

「ホントにわかったか?自分がどれだけ非力か」
『っ・・・鍛える』
「夜中に出歩くな」
『でも、敷地内っ』
「出歩くな」
『いっ!は、はい』

グッと手に力が込められ痛かったのと、秋矢の顔が本気で怒っているみたいで、はいとしか言えなかった

「・・・・ちゃっちゃと着替えろ」
『お、う。って、ジャージ?』
「そうだ」
『なんで』

こんな早朝からジャージってまさか

「ランニング行くぞ」
『え』
「なんだ?嫌なのか?今鍛えるって言ったばっかりだろ?」
『う、運動苦手・・・』
「だったら尚更だな」

問答無用とでもいうように、俺のジャージを勝手にタンスから取り出し、投げつけてくる

『はぁ・・・お手柔らかに』
「無理をさせるつもりはない」

それを聞いて安心しました




「まだ少し冷えるな」
『寒い』
「走れば温まる」

ジャージではまだ肌寒く、ㇵーっと息を吐き掌をすり合わせている俺だが、
そんな俺をチラッと見て秋矢は走りだした

『ま、まって!』
「気楽にいくぞ」

コースは中庭を通り、校舎の周りを一周。
敷地内からは出ないみたいだ

『秋矢は運動神経いいの』
「いいって程じゃないけど、それなりにな」
『ふーん。なんかやってた?』
「なんか?」
『サッカーとか野球とか』
「サッカーやってたな。手を使うスポーツは避けてたから」
『??なんで』
「突き指したら作曲できないからな」
『あ、そっか』

そうか、作曲にピアノは必須だもんな

「おしゃべりする余裕あるならスピード上げるぞ」
『ん』

運動は苦手だといったけど、俺だってそこそこ体力はつけてきた
だから一般の人よりは、走れる。はず

秋矢がスピードを上げてからは、無駄話をすることもなく、もくもくと走りつづけた

ただ走るだけって、退屈だよな

そう思って、景色を見ながら走っていると、前方に見慣れた後姿が

『(あの青い髪・・・)真斗?』
「・・・?」

数時間前に会った相手だ。間違えるわけない

急にスピードを上げた俺に、不思議そうな顔をする秋矢
だが、俺はそんなこと全く気にせず
視界に入った真斗に一直線だった

『真斗!』
「!?」

後ろからポンと背中を叩いて声をかけると、驚いた表情で振り返った

あ、驚かせちゃったか

『おはよう。早起きだな』
「ああ、おはよう。そういうお前も・・・ん」

ついさっき知り合ったばっかりなのに、もう会えるなんて
これって運命かも!
なんて思っちゃって少し顔がにやけそうになる

俺に声をかけられ少しペースを落として俺の少し後ろを見やる

「郁斗、誰」
『あ、えっと』

真斗の視線の先にいたのは秋矢
怪訝そうな顔で見ている
怪訝そうに見えるのは俺だけかもしれないけど
だって、顔は人当たりのよさそうな笑顔だし

真斗も俺も秋矢も足を止める

「Aクラスの聖川真斗だ。」
「はじめまして、Sクラスの藤波秋矢です。よろしく」

ニコッと笑い右手を差し出し、いつもの調子で自己紹介をする秋矢
そうだった、俺以外の前ではこういうキャラだった

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

差し出された右手をとって言う真斗

「郁斗知り合いなの?」
『まあ』
「へえ」

真斗からは見えない角度で俺を睨む秋矢

な、なんで睨むんだよ
知ってたらだめなのか?

「こんな時間に走り込みなんて、すごいな」
「体力にあまり自信がなくてな。そういうお前たちも、見かけによらず真面目なのだな」
「見かけによらずって。そんなに不真面目に見える?」
「いや、そうではなく。いかにも運動の出来そうな体型をしていたから」
「あー。俺はね?こいつは見た目通りダメダメなもんで、付き添いだよ」
『ダメダメって、そんな言い方』
「・・・」

え、なんでそこ無言なの

ジッと俺を見る真斗

『真斗』
「はっ、いや、すまない。なんでもない」

そういうと、ふっと視線をそらされてしまった

「・・・それと」
『?』

俺の耳元に近づいて、小声で

「人前では、名字で呼んでくれないか」
『え・・・なんで』
「・・・すまない」

すまないって、返事になってないよね

「内緒話とか、感じ悪いなー」

俺ら二人にいかにも不機嫌そうな顔を向ける秋矢

「・・・髪に埃がついていたので、取っただけだ」
「・・・・ふはっ!冗談だって!別になんとも思わねえよ」

本気にするなよー、とおかしそうに笑う秋矢

「俺は先に行かせてもらう。ではな。藤波、桜田」
「おう。俺らはこっちの道行くぞ」
『あ、おう』

名字呼び・・・

せっかく昨日仲良くなれたと思ったのに・・・

俺の思い込みだったのか

あー、なんだろ、へこむなあ・・・

数時間前は楽しかったのに

「あいつか?昨日あってたの」
『なんで』
「いや?何となく」
『違う』
「ふーん」

咄嗟に違うといってしまった
なんでだろう

それ以上特に詮索されることはなかったのでホッとした

「んじゃ、残り気合いれてくぞ」
『おう』

その後、特に誰にも会うことなく、空が明るくなるまで走り込みを続けた。

「なんだ、思ったより走れるじゃねえか」
『はぁ・・・まあ』

し、しんどいけどね

「明日からも毎日続けるからな」
『毎日!?』
「当たり前だろ。少しづつ距離も増やしていくから、覚悟しろよ」
『・・・はぁ』
「(そっけないな)」

見かけによらず、熱血なんだな
ついていけるかな

いや、こんなことでへこたれてたら、アイドルになんてなれないよな

うん。頑張ろう

とりあえず、真斗のことは一旦考えるのやめよう










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