転生シリーズ(歌王子)

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走り込みから戻り、シャワーを浴びて秋矢と二人、朝食をすませた

食堂で那月に会ったので、昨日部屋まで運んでくれたお礼を言った

「それから体調大丈夫ですか?」

と気遣いの言葉をかけてくれた
ホント、俺の天使!

それから翔にもあったが、日向先生に呼ばれているとかで、長く話はできなかった

そして今。

「よしじゃあ、昨日は体のチェックしたし、今日は声をきかせてもらおうかな」
『声・・・歌えばいいの?』
「その前に、音域がどれだけあるか調べる」

そう言って部屋のキーボードの前に立つ

かっこいいキーボード・・・
そういやこのキーボード自前だっていってたな

「こっからいくか」

基本の音からまずは上へ
その後低い音へ順に鳴らしていく
その音に合わせて声を出す

「ふん・・・3オクターブは無理か」
『3オクターブって無理に決まってるだろ』
「でもなかなか高い音も出せるんだな、感心感心」
『どうも』

物凄くいい笑顔で褒めてくれる秋矢

なんだよ、キュンってするだろ
このイケメンが

素直に嬉しいです

「この音、地声で出せねえか」
『うぅ、きつい・・・』
「まあいいか、いずれ出せるように練習するか・・・」
『やっぱ腹筋つかうな』
「そりゃそうだ。あとこの音、無理か?」

結構難しい注文するな

『その音単体では、無理かも』
「続けてならいけるか・・・お前裏声綺麗だな」
『あ、ありがとう』

またさらっと褒められた
なんか恥ずかしいな

ぶつぶつ言いながらノートにどんどんメモっていく秋矢

正直パートナーとして不安だったけど、やるときはやる男みたいだ

秋矢がどんな曲を作るのか、楽しみになってきた

「低い音はもう少しいけるか?」

さっきと同じように今度は低い音を調べていく

そんなにメモることがあるのか?と思うくらいノートがどんどん埋まっていく

「音域はこんなもんか・・・俺の作る曲にあわせて今後さらに広げてもらうからな」
『はい』

なんか、先生みたいだとか思っていたら敬語で返事をしていた

「んじゃ、一曲なにか歌ってくれ」
『なにかって・・・』
「なんでもいいぞ」
『アカペラで?』
「そうだな・・・んじゃ、この曲、知ってるか?」

秋矢が差し出してきた一枚の楽譜

『知ってる。有名だからな』
「俺伴奏するから、歌ってみて」
『わかった』

楽譜を俺に渡したままキーボードに向かう秋矢

楽譜なくても弾けるのか・・・

今までよりさらに真剣な顔つきで鍵盤を見つめる

不覚にも、かっこいいと思ってしまった

「いくぞ」

そう言って鍵盤を弾く

うわ、すごい

さすが作曲歌コース。俺も楽器は出来るけど、ここまでじゃない

「何見てんだ、入るぞ」
『っ』

つい、見入ってしまった

秋矢に睨まれ、楽譜に視線をやる

こんなに真剣なんだ
俺も真剣に答えないと

息を吸って、準備をする

楽譜に合わせて歌う

知っている曲だからだろうか
それとも、秋矢が合わせてくれているのだろうか
リズムがとりやすい
とても歌いやすい

『・・・はぁ』
「ん、なるほど」

歌い終わるとすぐさまメモをとる秋矢

なるほどって・・・よかったのか、悪かったのか、どっちだ

「ここのとこ、地声か?」
『えっと、そこは、裏かな』
「ふん」

ノートとファイルから取り出した楽譜に直接メモをとる
ホント、真剣だな

「んじゃここは」
『そこは・・』

と、そんな感じで事細かに聞かれ応えを繰り返す

「ここのところ、地声でだせねえ?後こっちは、裏声でここにビブラート入れて」
『・・・はあ』

言われた通りに楽譜にメモをとる

「んじゃその楽譜の通りにもう一回歌って」
『分かった』

そうして再び秋矢が伴奏を始める

『どう』
「んー・・・」

ペンを銜えて眉間に皺をよせ楽譜と睨めっこする秋矢

言われた通りに歌ったつもりなのだが、どうやら納得いってないみたいだ

『あ、俺、この部分、こっちの方がいいと思うんd「黙れ」』

だ、黙れって言われた
自分の意見言っただけなのに黙れって言われた!!

酷い

俺だって、何も考えずに歌ってるわけじゃない
そりゃ、まだできないことも多いけど・・・

「ここの部分、こっちにしてもう一回歌ってくれ」
『・・・』

俺の返事を待たずに伴奏が始まった

仕方なく、歌う

Aメロ、Bメロまで歌って、サビに入ったところで

「あー!!違う!!違うんだよ!!!」
『!?』

急に伴奏が止まり、不協和音が部屋に響く

『あ、秋矢・・・・?』
「あの時と全然違う」
『あの時って』
「教室で、お前が初めて人前で歌った時だよ」

自己紹介の時のことを言っているのか

「あの時は本気で感動した。俺のパートナーはお前しかいないと思った。それなのに」
『秋矢・・・』

ガタッと立ち上がり俺の目の前までくる

「何が違う。真剣に歌ってないだろ」
『そんなことない!言われた通りにやってる』
「じゃあなんで!」
『いっ』

爪が食い込むほどの力で肩を掴まれる
痛い
それに、怖い

『い、痛いっ・・・』
「っ・・・その顔だよ」
『・・・?』
「その不安そうな顔。あの時も確か直前までそんな顔してたよな」
『秋矢?』
「その顔の後に、歌えばいいんだ。そうだろ」
『は?』

な、何言ってんだ

「(どうしたらその顔になる)・・・」

真剣な顔で見下ろしてくる秋矢
イケメン・・・ってそうじゃなく
今何考えてるのか全く予想がつかない

ジッと見つめられて、さらに手に力が入る

だから、痛いって!
でも何か言ったら、また黙れって言われるかもしれない

俺打たれ弱いんだってば

何も言えず、視線を逸らしグッと奥歯を噛みしめることしかできなかった

「・・・痛いといいのか」

い、今、すごく不吉な言葉が聞こえた気がした

「っ・・・」
『!?』

嫌な予感は的中した

秋矢の顔が近づてきたかと思ったら、着ていたシャツの襟をグッと引っ張られ肩をむき出しにされた

そして

ガリっと嫌な音がして、その後激痛が走った

『いっ!?んなにしてっ!?』

あまりの痛さに涙が滲み、顔が歪むのが自分でもわかる
逃れようにもがっちりとホールドされているため、距離がとれない

「ははっ、やっぱいいな」

秋矢の楽しそうな声

なになに、何なのこの状況!?

まじで、痛い
俺ドMじゃないから、嬉しくないってば

『離れ、ろ』

「ごめんごめん、痛いよな」

そういうと今度は首筋に生暖かい感触・・・
それから背筋がゾクッとする感覚・・・

舐められてる!?
舐められてる!!

何がしたいの、ホントに何がしたんだ!
こんなことして、何になるっていうんだ???

『あ、秋矢・・・』
「うん、やっぱお前、息抜き気味の方がいいな」
『は・・・?』
「ブレスもうちょっと気にして、それから・・」
『ちょ、ちょっと、何の話』
「は?なにって、歌の話だよ。さっき言ったろ、なんか違うって。お前の良さ、俺が引き出してやってるんだろ」

こんなことで、引き出されてたまるか

『いい加減に、しろ!』
「郁斗」
『俺だって真剣にやってる、まだ秋矢の期待に応えられるほどの技術はないかもしれなけど、精一杯応えようとしてんだろ・・・っ』

力任せに秋矢を突っぱね、あがった息のまま捲し立てるように言った

「・・・・それでもまだ足りないんだよ」
『っ』
「お前の歌はそんなもんじゃない。まだ出し切れてないんだよ。安心しろ、俺が見つけてやるから」
『・・・秋矢』
「痛いのは、嫌なんだよな?じゃあ他の方法で」

もう本当に何を言っているのかわからない
怖い。
それしか考えられない

『っ』
「郁斗!!」

にじり寄る秋矢に底知れぬ恐怖を感じ、すきを見て部屋から飛び出した

ずきずきと痛む肩を抑えながら、宛てもなく走り続けた

今は秋矢の傍には居たくない

どうせ夜にはあの部屋に帰らなければいけないのだけれど、その時のことなど、今は考えている余裕がなかった

わからない。秋矢が何を考えているのか・・・

俺のこと真剣に考えてくれている、んだよな?

いいパートナーになれると思ったのに・・・

うまくいかないな・・・

じわっと目頭が熱くなるのを感じた

『・・・痛い』










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