転生シリーズ(歌王子)

□㉕
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痛む肩を抑え、飛び出したはいいものの・・・
行く当てがない

部屋には秋矢がいるし、今の時間帯、どこに行っても人がたくさんいる

こんな情けない顔、誰にも見られたくない

『中庭・・・・も、人いっぱいか』

楽譜片手に練習している人がたくさんいる
二人組が多い。
きっとパートナー同士なんだろうな

はあ、なんでうまくいかないんだろう

俺だって、あんな風にパートナーと仲睦まじく練習したいよ

ここにいたらもっとつらくなる

別のところ探そう

ベタだけど、やっぱトイレかな・・・

そう思い、校舎から離れたグラウンドのトイレに向かう

ん?

その途中で目に入ったのは、倉庫というか、物置というか、とにかく今は使われていないであろう古びた小屋

この綺麗な校内に、こんな場所があったなんて

今の俺にはうってつけの場所じゃないか

しかも運よく鍵も開いているみたいだ

やっと一人になれる

そう思い、俺は中へ入った

暗くて埃っぽい・・・

「桜田!」
『!?』

急に大声で名前を呼ばれ振り向く
視界の先に居たのは、

『日向先生っ』

Sクラスの担任の日向龍也先生だった

「こんなところでなにしてる!!」
『え、あ・・・いやあの・・・』

何って言われても

「はあ、ドアが閉まる前でよかった」
『?なんですか?』
「いいからこい」

そう言って俺に手を伸ばす

『あ、俺』

日向先生が俺に手を!
に、握ってもいいってことですか!!

って、うわっ!待って俺今すごい涙目!

「ん?桜田?」
『!?なんでもないです!』

やばい、気づかれたかも

ごしごしと滲んでいる涙をぬぐう

「おい、そんな強くこするな」

真斗といい、なんでこんな主要キャラに醜態さらしてんだよ俺
最悪・・・

『大丈夫です、何でもありません』
「・・・いいから早くこっちへこい」
『もう少ししたら・・・』

中は暗いから、誤魔化せるけど、外にでたら一発で泣いてたってばれる
ってもう、ばれてるかもだけど
これ以上情けない顔見せたくない

「ダメだ」
『・・・はい』

怒られた
もうやだ

メンタル弱いって思われただろうな

こんなんじゃ芸能界やっていけないぞ、とか言われたらどうしよう

はぁ

ため息を吐き、もう一度手の甲で涙をぬぐい、外へ出る決心をした

『今出ます、大丈夫です、すみません』

日向先生の手を掴むことも出来ず、自ら小屋から出る

いや、出ようとした

『っ!?』
「桜田!」

どうやら服が何かに引っ掛かっていたようで、俺が動いた拍子にそのなにかも一緒についてきた

かなり大きなものだったみたいで、それは重力に従い、俺の方へと倒れてきた

「ばかっ!!」
『!?』

潰される!っと思ったその瞬間、俺の視界は暗闇に包まれた

それと同時に感じる強い圧迫

ガシャン!!
という音と、自分が地面にぶつかる衝撃が同時にきた

しかし、さほど痛くない

『ひゅ、日向先生!』

何が起こったのか、全くわからなかった
1つわかるのは、今、俺は、日向先生に抱きしめられているということ

「っ・・・大丈夫か」
『あ、俺は・・・先生っ』
「俺は大丈夫だ」

うまく言葉が出てこない

大丈夫だという割には、顔が歪んでいる
痛みに耐えているのか、それとも、物凄く怒っているのか・・・

どっちもいやだな

「ったく。だから早く出て来いっていったんだ」
『す、すみません』
「本当に大丈夫か。痛いところはないか」
『本当に、大丈夫です』
「そうか。大事な生徒にけがさせるわけにいかねえからな。しかもアイドルコースの生徒。顔に傷なんてできたら終わりだぞ」
『すみません・・・』
「はぁっ・・・何ともなくてよかった」
『・・・・』

すみません、としか言えず、とうとう俺は黙ってしまった

終わり。その言葉を聞いて急に怖くなった

「しまった!!」

また泣きそうになった俺の耳元で叫ぶ日向先生

声、デカい・・・
耳キーンってした・・・

慌てて俺から離れ、扉の方へと向かう

「くそ!」
『・・・』

何度かガチャガチャとしたあと
扉を思い切り蹴飛ばす先生

めちゃくちゃ怒ってる・・・超怖い

「ちっ・・・おい!!!誰かいないか!!」

外に向かって大声を上げる先生

なに?どういうこと?

『せ、先生?』
「はあ。くそっ。誰もいないか」
『・・・あの』
「ここの倉庫、扉の立てつけが悪くてな。外からは開くんだが、中からは全くあかないんだ」
『え?』
「なんで鍵開いてたんだ」

ガシガシと頭をかきながら戻ってくる

『つまり、誰かが、気付くまで出られないと?』
「そういうことだ。鍵が開いてたんなら誰かがまた締めにくるだろ。それまでの辛抱だ」

だから早く出て来いって言ってたのか

さっき倒れてきたもの(正体は脚立だった)を起こし、マットの上に腰を下ろす先生

「悪かったな。先に説明しておくべきだった」
『いえ、俺がすぐに出なかったのが悪いんです』
「・・・」
『・・・』
「まあ座れ」
『・・・はい』

先生から少し距離をおいたところに俺も腰をおろした

まさか、日向先生とこんなところに閉じ込められるなんて、思ってもいなかった

なんて展開だ・・・

これじゃまるで、日向先生ルートじゃないか

って、そんな悠長なこと考えてる場合じゃない

「大丈夫か」
『あ、ホントに、どっこも怪我してないので』
「そうじゃない」
『?』
「あー・・・悩みがあるなら聞くぞ。それも教師の仕事だ」
『・・・大丈夫です』
「・・・そうか」


悩みは山ほどある。
けど、なんて言っていいのか・・・
なにをどう相談すればいいのかわからない

パートナーとうまくいってません、とかいえば良いのか?

でも、パートナーは早乙女学園長が決めた相手だ
何があっても変更はしない、と強く言われている

相談したところで、頑張れと言われて終わるだけだろう
まだわからない相手だから、これから知っていけばいい、とかきっとそんな答えしか返ってこないと思う

「少しは、周りに頼れ」
『先生?』
「お前、ホントは言いたいことたくさんあるんだろ。心の中にとどめているだけで」
『・・・』
「言葉選びすぎて何も言えないだけだろ」
『そんなこと・・・』
「周りからの印象は確かに大事だ。でもそればかりに気を取られて、自分の言いたいことも言えないんじゃ辛いだろ」
『・・・』

そんなことはわかってる
それが出来れば苦労はしない
人を気付けたくない
人に嫌われたくない
だから言葉を選ぶ
慎重になる

「いまだってそうだろ」
『っ』
「もっと心をひらけ」
『・・・心』
「ああ」
『・・・』
「その方が、もっと魅力的に見える。俺はそう思うけどな」
『はい』
「・・・持って生まれた才能だけじゃないだろ。努力してきたんだろ。だったらもっと胸はって、自分に自信を持て!俺は、お前の味方だ。担任として、先輩として、お前を見捨てたりはしない」
『先生』
「何かあればいつでも言え。力になる」
『・・・はい』

俺の目を見つめ、熱く、強く、力付けてくれる

俺のこと、こんなにも考えてくれてる
力になるといってくれている

応えないと

『ありがとうございます』
「よし。いい目だ」

知らず知らずのうちに、心が軽くなっていた
あんなに暗い気持ちだったのに、今では嘘のように穏やかな気持ちだ

しっかりと日向先生を見つめ返し、力強くうなづいた

先生もすごく優しい顔をしていて・・・

はあ、イケメン・・・

「ん?どうした」
『あ!いえ!』

ちょっと見つめすぎたみたいだ

ダメだダメだ

俺も、こんな余裕のある大人の男になりたいな

「それにしても、誰も来る気配がないな」
『携帯で誰かに連絡してみるとか・・・』
「・・・桜田携帯持ってるか?」
『・・・それが、部屋に置きっぱなしでして』
「俺もだ」

慌てて飛び出たんだから持ってるわけない

先生も持ってないのか、仕事の電話とか大丈夫なのだろうか

「こんなことなら、林檎に携帯なんて貸すんじゃなかった」
『林檎先生?』
「いい音楽アプリがあるから入れてあげるわーなんていいながら奪っていたんだよ」
『・・・その会話、恋人同士みたいですね』
「気色悪いこと言うな!」
『ははっ』

ほんと、二人付き合ってればいいのに

「そうやって、自然にしてりゃいいんだよ」
『っ!!』

そう言って、俺の頭をわしわしと撫でる日向先生

『龍にぃ・・・っ』
「ん?」
『あ!いえ!!なんでもないです!!』

乱暴だが優しいその手に、俺はつい思い浮かんだ名前を呟いてしまった

「龍にぃ?俺のことか?」
『ち!違います!!先生をそんな風に呼んだりしませんよ!』
「んじゃなんだ。今の」
『あ、えっと。俺の兄ちゃんで・・・その、似てたからつい・・・』

は、はずかしい

先生をお母さんっていうより恥ずかし気がする!
しかも、名前ニアピンだよ
なんで龍斗、なんて似たような名前してるんだよ!
龍にぃのばか!


「・・・いいぜ」
『?』
「龍にぃ。特別に許可してやるよ」
『え?え?!』
「ほらこい」
『!?』

グイッと距離を詰められ、頭を引き寄せられ、抱きしめられる

「ホームシックになんてなってんじゃねえぞ。まだまだ家には帰れねえんだから。俺で我慢しろ」
『・・・龍にぃ・・・』
「(悪くないな)」

あったかい。です。

確かに、すごく安心する

でもこれ
心臓がもたないです

「ただし。二人っきりの時だけな」
『・・・はい』

なんだか、日向先生フラグたっちゃったみたい

いや、そんなことはない。
だって日向先生には林檎ちゃんが

俺は二人の邪魔する気はないので

だから

もう少し甘えさせてください

『龍にぃ・・・』

ギュッとしがみついた

もう一度ちゃんと、秋矢と話し合おう

もう大丈夫
できるはずだ

秋矢のことを思ったら、肩の傷がまた痛みだした

大丈夫

大丈夫だ







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