転生シリーズ(歌王子)

□㉖
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困った


というか、


恥ずかしくてもうダメ






日向先生に「龍にぃ」って呼んでもいいと言われて、嬉しくて暖かくて
そのうえ抱きしめられたりなんかしちゃったから
俺も調子に乗ってギュっなんてしがみついちゃったわけだけど

まさかこんなに長時間にわたると思ってなかったです先生!

かれこれ数分間抱きしめられている俺

離れようにも、日向先生の腕にはまだ力が残っている

どうしよう
そろそろ俺の羞恥も限界にきている

なんて言ったらいいんだろう

「そういやお前、その兄ちゃんからはなんて呼ばれてるんだ」
『えっと、普通に名前です』
「そうか」
『はい・・・』

そういったきりまた黙ってしまった

なんだ?なんでそんなこと聞いたんだ??

「郁斗」
『!?』

少し間が空いて、耳元で名前を呼ばれた

う、わぁ、、、いい声っ

じゃなくって!

『う、あの・・・』
「お前だけに呼ばせたんじゃ、意味がないだろ。だから俺も、お前のこと名前で呼んでやる」
『・・・龍にぃ』
「郁斗・・・っ、これも、二人の時だけだぞ」
『はい』

強調して言われなくてもわかってます
こんなの他の人に聞かれたら、どんないじめにあうか
贔屓にされてるって言われたくないし

いや、実際贔屓にされてるのかな

それとも、他の生徒にもこういう特別なことしているんだろうか?

そうだよな。
俺だけなはずないよな

危うく勘違いするところだった

でもさすがに、この状況、誰かに見られたらうまく説明できない

やましいことは一切ないとしても、疑われるだろうな

てことで、そろそろ

「誰かいるのですか?」

「『!?』」

放してもらおうと思ったら、扉の向こうから声がした

すりガラスの窓の向こうにシルエットが見える

と、透明ガラスじゃなくてよかった!!!

「・・・!!誰か知らないが助かった!!建付けが悪くて中からは開かねえんだ!鍵はかかってないからそっちからあけてくれないか!」
「・・・??日向先生?ですか?」
「ああ、そうだ」
「今開けます」

そうしてガチャッと扉の開く音がした

外からは簡単に開くんだな・・・
ほんと、誰か知らないけど助かった

これ以上あの状態が続いてたら本当に身が持たなかったからな

「大丈夫ですか」
「一ノ瀬か。ああ、助かった」

!?

扉の開けてくれたのは、なんと一ノ瀬トキヤ

よりによって・・・

日向先生がトキヤの方へと向かっていく

い、今出ていきたくない・・・

「なにしてんだ、さっさと出るぞ」
「??他にも誰かいるのですか?」

入り口から俺を呼ぶ声がする
ああ、いかなきゃ

「・・・あー・・・桜田?」
「・・・?桜田・・・」
『今、いきます』

さっきの流れで小さく俺の名前を呼んだが、すぐに名字に言い直した
そうだよ、目の前にはトキヤが居るんだ
他の人に聞かれるわけにはいかない
ましてや、トキヤにこんなことがばれたら

この先、何かあっても俺の実力だって認めてもらえないかもしれない

小さく息をついて物陰から顔を出した

「・・・桜田くん」
『・・・ありがとう一ノ瀬君』

眉間に皺を寄せて俺を見るトキヤ
お礼を言うために目を合わせたけど、やっぱりなんだか気まずくてすぐに目を逸らしてしまった

「・・・・(桜田が気落ちしてたのはこいつが原因か?)」
「・・・・(なぜ、日向先生と二人でこんなところに)」

三人の間になんだか気まずい空気が流れる
なんで、誰もしゃべらないんだ、よ

息がつまりそうだ

「また閉まる前にとっとと出るぞ。俺はここのこと学園長に伝えてくる。また誰か閉じ込められたら大変だからな」

そう言って、日向先生はさっさと行ってしまった

去り際に、俺の肩をポンッと叩いていった

『・・・っ』

いつでも頼っていいぞ
そう言われた気がして、胸が詰まった

今、すごく龍にぃって呼びたい気分だけど、そういうわけにはいかない
なんせ目の前には無表情のトキヤがいるんだから

先生・・・なんで二人きりにするんですか
泣きそうですよ

『じゃあ、俺も行く』
「・・・ええ」

なにか聞かれるかと思ったけど、あっさりと解放された

気にならないのか

それはそれでなんだかさみしい

って、俺は何考えてんだ
何か聞かれたらなんていえばいいんだよ
聞かれないに越したことないだろう

俺は逃げるようにトキヤに背を向けた

憧れてるのに。仲良くしたいのに

どうしてうまくできないんだろう

「桜田くん。中で、なにか・・・」
『!?え』
「・・・いえ。なんでもありません。では」
『・・・?』

聞いてきたにもかかわらず、こたえる前に行ってしまった

興味、持ってくれた、のか・・・

なんかちょっと

『嬉しいかも・・・』
「桜田さん!?」
『!?』

突然大きな声で名前を呼ばれた
ビックリして振り向くと、そこにいたのは

『な、七海さん』

なんと七海春歌主人公ちゃん

「どうしたんですか?!」
『えっ・・・?』

どうしたんですかって、そっちこそどうしたんですか、そんな血相かえて

「待ってください、今ハンカチをっ・・」

そういってスカートのポケット探す

ハンカチ?なんで?

『七海さん?』

突然のことにどうしていいかわからず、足を止めたまま名前を呼ぶことしかできない

「濡らしてきます!一緒に来てください!」
『え?!ちょっと!?』


グッと俺の手を引く七海さん

この子、思ったより強引なんだな

でもやっぱり引っ張る力は男の物とは比べ物にならないくらい弱い
こういう子を、守ってあげたいって思うんだな

手も小さいし・・・

『あの。七海さん?』
「はい?」
『突然どうしたの・・・?』
「だって、桜田さん、かたっ」

眉を下げて、泣きそうな顔で振り返る七海さん

おおっ・・・可愛いっ・・・

『かた?』
「郁斗!!!!」
「!?」
『!?』

肩と聞こえて何かを思いだしそうになったところで、
俺と七海さんを引き裂くように何かが俺に突進してきた

そのまま俺はそのなにかに強く抱きしめられた

この、髪の色、背の高さ、体格・・・

『あ、秋矢!?』
「藤波、さん!」
「やっと見つけた・・・」

力、強すぎ!!苦しいって!

「さっきは悪かった」
『・・・っっ』
「少しやりすぎた。お前の中にあるもの、どうしても引き出したくて焦りすぎた」

ぐっとさらに力をこめて言う秋矢

『苦しいっ』
「ごめん、本当に・・・」

そういう声が詰まっている
もしかして、泣いてるのか

『秋矢、わかったから。苦しいって』
「郁斗・・・」

耳元でか細い声で言う秋矢
こんな弱いところもあるんだ・・・

自分に自信があって強気で
こんな風になるなんて想像もしてなかった

「肩」
『ん?』
「血が出てる・・・俺のせいだよな」
『え』

血、でてるの?

こいつ、どんだけ強く噛んだんだよ

「・・・」

少し抱きしめる力が弱まったと思ったら、肩が外気に晒される感覚と
そして

『いっ!』

生暖かい感触とチリッとした痛み

「ごめん。けど、消毒しねえと」
『消毒・・・?いい!いいから、やめっ!!』

消毒されてんの今!?
や、やめっ
痛いっ
ってか、血舐めるとか、吸血鬼か!
汚いだろ!!

「郁斗、ごめん」
『わ、わかったからっ』
「あ!ああああああ、あ、あの!!」
「???」
『!!七海さんっ!これはっ!!』

しまった!!俺七海さんといたんだった!
いろいろ衝撃的すぎて、すっかり忘れていた

七海さんの声にハッと我に返って秋矢の肩越しに周りを見渡すと
そこそこの人だかりが出来ていた

なんてこった
ハンカチ片手にうろたえる七海さん
そしてザワザワする生徒たち

『っ・・・秋矢』
「許してくれるか」
『ゆ、許す、許すから、もうっ』
「よかった!郁斗!!!」
『おいっ!!』

一瞬離れて俺の顔を見た秋矢だったが、俺が許すというなりまた抱きしめてきた

これ以上くっつくな!
あらぬ、誤解が生まれるっ・・・

そりゃ俺は男が好きだけど

カミングアウトする気はないってば!

それに、俺が好きなのはっ・・・











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