転生シリーズ(歌王子)

□㉗
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【七海春歌side】





今日は朝から資料を片手に一ノ瀬さんとミーティングです

一ノ瀬さんの話はとても難しくて、ついていくのに苦労しました

「一ノ瀬さんの為に、私まだまだ頑張らないといけませんね」

一ノ瀬さんにいただいた資料を胸にギュッと抱いて強く決心しました

それにしても、昨日はこの資料に目を通していて寝不足です

一ノ瀬さんは今日これからお仕事らしいので、私は部屋に戻ってもう一度資料に目を通しておきましょうか

そう思って部屋へ向かっている途中

目の前に先ほど別れたはずの一ノ瀬さんと、誰かの後姿

何か話しているようですが、取り込み中でしょうか?

そんなことを思いながら一ノ瀬さんを見ていたら、不意に目が合ってしまいました

私に気が付いたのか、一ノ瀬さんは誰かとの会話をやめこちらに歩いてきました

あ、じゃ、邪魔してしまったでしょうか!!

「彼のことお任せしました」
「え?」

すれ違いざまにそう呟いた一ノ瀬さん
私はそんな彼の背中を見つめ首をかしげました


任せました・・・?

私は一体何を任されたのでしょうか??

彼とはいったい・・・
もしかして、今一ノ瀬さんとお話されていた方のことでしょうか

よくわかりませんが、とにかくその彼が誰なのかわからなければ話になりませんね

そう思い、私はその人に近づきました

桜田くん?でしょうか?
さっきは遠くてわからなかったですが、この後ろ姿は桜田くんで間違いありません

あ、今日はおやすみだから私服なのですね
とても貴重です!
白いシャツがとてもよく似合っています

あら?肩のところにだけ色がはいっているのですね!
とてもおしゃれです!
でも、よく見ると片方だけ赤い・・・

「桜田さん!?」
『!?』

その赤の違和感に気がついた私は、桜田くんに駆け寄りました

『な、七海さん』

驚いたように振り返る桜田くん

「どうしたんですか?!」
『えっ・・・?』

近くに行って確信しました
桜田くんの肩に血が滲んでいるのです

「待ってください、今ハンカチをっ・・」
『七海さん?』

どうやら彼は肩を怪我していることに気づいていないようです
だって、私がどうしてこんなにも慌てているのか全くわかっていないみたいですから

一ノ瀬さんが言っていたのはこのことですね

「濡らしてきます!一緒に来てください!」
『え?!ちょっと!?』

少し強引かとも思いましたが、桜田くんの手を引きました
スカートのポケットから出したハンカチを握り締めて

初めはなかなか進んでくれなかった桜田くんでしたが、徐々に拒む力も弱まってきて幾分か歩くのが楽になりました

『あの。七海さん?』
「はい?」

後ろから未だ不思議そうな声で名前を呼ばれました

『突然どうしたの・・・?』
「だって、桜田さん、かたっ」

振り返ると再び目に飛び込んできた赤
痛そうです
どうやら私は血が苦手のようです
胸がギュウっと締め付けられました

『かた?』
「郁斗!!!!」
「!?」
『!?』

早く手当をしなくては!

そう思った矢先でした

桜田くんの手を引き、私を押しのけるように誰かが割り込んできました

いたた、な、何事ですか

『あ、秋矢!?』
「藤波、さん!」
「やっと見つけた・・・」

桜田くんの言葉にようやく誰かわかりました

「さっきは悪かった」

わかったところで、目の前で起こった突然の出来事に頭がついていきません

「・・・た。お前の中・・・・どうしても・・出したくて・・・」

ギュッと桜田くんを抱きしめる藤波さん
背中越しのせいか、頭の整理が追いつかないせいか、藤波さんがなんといっているのか部分的にしか聞き取れませんが

これはっ・・・

一体なんのお話しなのでしょうか!?

『苦しいっ』
「ごめん、本当に・・・」

えええっと、こ、これは、修羅場というやつなのでしょうか
何に対しての謝罪なのでしょうか
先ほど聞こえた言葉・・・
私の聞き間違いでなければ
そういう・・・・

い、いえ!!まさかそんなこと!

そういう書物を読みすぎたせいで、私の耳が都合のいいように変換しているだけです
そうに違いありません!!

で、ですが・・・

少しは期待しても・・・?

『秋矢、わかったから。苦しいって』
「郁斗・・・肩・・・血が出てる・・・俺のせいだよな」

藤波さんがジッと血の滲むシャツを見つめ、そして

!?!?

『いっ!』

ギュッと目を閉じ、藤波さんの服を掴む桜田くん
そんな桜田くんの肩に顔を埋める藤波さん

こ、これはまさかっ

「ごめん。けど、消毒しねえと」
『消毒・・・?いい!いいから、やめっ!!』

しょ、消毒ですって!?
消毒ということは、つまり今、藤波さんは桜田くんの傷口をななな舐めているということですか!?

この角度からではよく見えないのですが、桜田くんの表情といい、藤波さんの言葉
それからなんといっても、

時折ジュっという吸血音に、ぴちゃぴちゃという唾液音っ

待ってください!本当に彼らはそういう関係なのですか!?

こんな人目に付く場所でこんな行為・・・

私的には相手が藤波さんというところが少し残念なのですが

これはこれでありがとうございます!

「郁斗、ごめん」
『わ、わかったからっ』

はあ、桜田くんのその痛みに歪んだ表情、たまりませんっ

写真、写真を撮らせていただきたい!

口元のにやけを抑えることが出来ず、両手で隠してはいたのですが、もうこれ以上はっ!!

「あ!ああああああ、あ、あの!!」


もう少し見ていたいという気持ちを抑えつつ、私は二人に声をかけました
ああ!興奮していたからでしょうか、声が裏返ってしまいましたっ

「???」
『!!七海さんっ!これはっ!!』

私の声に桜田くんの肩から顔を放し振り向く藤波さん
それから、私と目が合い、慌てだす桜田くん

その表情は、まさに、私といたことを忘れていた、とでも言っているような表情でした

『っ・・・秋矢』
「許してくれるか」
『ゆ、許す、許すから、もうっ』
「よかった!郁斗!!!」
『おいっ!!』

再びギュッと桜田くんを抱きしめる藤波さん
彼は周りに人がいてもなんら気にしていない様子です
さすがというかなんというか

そんな彼の表情はとても嬉しそうで
心の底から安心した、と言っているようでした











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