転生シリーズ(歌王子)

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『あ、秋矢・・・』

「ん。ジッとして」


今俺は、部屋で秋矢に傷の手当てをしてもらっている


あの後秋矢に傷の手当てをさせてくれとせがまれた


あんなことがあった後だから、正直二人きりの部屋には戻りたくなかったんだが


龍也先生に慰めてもらったし、秋矢も本当に反省しているという様子だったため
しぶしぶではあるが、この部屋に戻ってきた


それにしても


はあ


七海さんがいる前であんなこと・・・


変な勘違いしてないといいけど・・・


部屋へ戻る際に、「お大事になさってください!」と言われた


あの時はテンパっててお礼も言えなかったからな


今度会ったらちゃんと言おう


「よし」

『ん、ありがとう』

「本当にごめん」

『もういいって』

「傷は残らないと思うけど、念のため毎日手当するから」

『毎日?そんなに酷いの・・・?』

「今後脱ぎの仕事があった時、跡が残ってたら大変だからな」



・・・誰のせいだよ



「・・・悪かった」


何も言わない俺に、シュンとしながらもう一度謝った


こう、何度も謝られると・・・調子狂うな
いつも強気な秋矢だからこそ、余計に


『でも次またあんなことしたら、俺もう秋矢とは一緒にいられないと思う・・・』

「そうだよな。わかってる」


ならいいんだけど


いくら流される俺だってさすがにあんなこともう嫌だ

俺の為とはいえ、あんな・・・


「なあ」

『ん』

「もう一回、歌ってほしいんだけど」


ジッと俺を見つめて真剣な表情で言う秋矢


そうだった、さっきまで練習してたんだった

それであんな


正直ちょっと怖い


けど。きっともう、大丈夫


・・・だよな


『わかった、だけどさっきみたいなのは・・・』

「しない!しないから!」


食い気味に言われた


信用してもいい、よな















「やっぱすごいな」

『あ、ありがと』


一曲歌ったあと、秋矢の指示を受けながら何度か歌ってみた


今度はさっきみたいなことは起きず、何事もなく終わった


「なあ」

『ん?』


楽譜をしまって冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し飲もうとした俺に秋矢が声をかけた


またそんな真剣な顔して



「俺、本気でお前がいいんだ」

『・・・』



俺がいいって



「ずっと見てたんだ。郁斗のこと」

『・・・見てたって。どこで』


俺は秋矢とこの学校で初めて会った

そう思っているんだけど

もしかしてそれ以前にどこかであっていたのか?



「それは・・・」



そう言ったきり秋矢は下を向き何も言わなくなってしまった

なんとなく気まずい空気が流れた



『え・・・っと、お腹すいた、かも。何か食べに・・・』



聞いてはいけないことをきいてしまったのかもしれない


そう思って話題を変えた


そういえばもうそろそろ夕飯の時間だろうか
お昼食べ損ねているから、お腹がなりそうだ



「っ・・・そうだな!よし!飯食いに行こう!」

『ああ』


一瞬困ったような、泣きそうなような、複雑な表情で顔を上げた秋矢だったが

すぐにいつもの人当たりの良い顔で笑った


そしてそのまま扉を開け、俺に背を向け部屋を出て行く




『秋矢』




そんな背中に俺は一言


『これから、よろしく・・・お願いします』


途中で照れくさくなってしまいなぜか敬語に・・・


「郁斗?」

『・・・俺、秋矢の作る曲、歌ってみたい。それで、その曲でみんなにすごいって言わせたい』


振り返る秋矢の顔がなかなかみれない


ずっと俺のこと見ててくれて、俺がいいって言ってくれた相手だ

拒絶の言葉なんてくるはずない、そんなのはわかっているのに


心の内を話すのは怖い

ドキドキする

心臓が壊れそうだ


『だから、その・・・俺、がんばります』


お願いだから
拒絶しないで


一緒にがんばりたい


この世界に爪痕を残せるように



だから



見捨てないで




「俺からも、よろしくな」

『!』

「自信持ってって。大丈夫だから。」



無意識に力の入っていた俺の両手の拳にそっと手を重ね

コツンと、俺のおでこに自分のおでこをぶつけた


「言ったろ。お前がいいって。郁斗の良さを一番理解できるのはこの俺だって。もっと輝かせてやるって」

『秋矢・・・』



顔が近い



「信じられねえ?」

『・・・』


そう尋ねられて、首を横にふる


「よかった信じてくれて。手放すわけないだろ」


耳元でそう囁かれた


秋矢の低くて、優しい声色に
俺は気づいたら背中に両手を回し、胸元に顔を埋めていた






すごく




すごく安心した






さっきあんなことがあったばかりなのに


俺は


油断しすぎだろうか


でも






俺はこのぬくもりに





『うん』





とても弱いんだと気がついた










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