転生シリーズ(歌王子)

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「じゃあまずはストレッチからだ」

日向先生の掛け声とともに、片方がマットの上に横になる

「・・・私が先でいいですか」
『あ、うん』

そういってトキヤはマットの上に仰向けになった

「まずは右足をこうゆっくりと持ち上げる」

日向先生が見本として生徒の片脚をグーっとゆっくり上へと持ち上げる

「お尻は浮かないようにして、膝は出来るだけ真っ直ぐに、上がるところまでゆっくりと。無理はさせるなよ」

トキヤの足を、持ち上げる・・・のか

ふ、触れてもいいのか
本当に?

『・・・』
「桜田くん」
『!ごめん』

戸惑っている場合ではない

真面目にやらないと

ゴクリと生唾をのみ、いざトキヤの足に手をかける

平常心平常心・・・

引き締まったふくらはぎ
太もも

きゅっとあがったお尻

『・・・』

長い脚

遠くで日向先生のカウントが聞こえる

これは本当に現実なのだろうか

あのずっと憧れていた、向こうの世界でずっと好きだった一ノ瀬トキヤに

触れている

こんなことが

「足を変えて同じように」

日向先生の言葉通りに次は左足を支える


同じようにカウントが始まる

「余裕がありそうなら、体重をのせてもいいぞ」

日向先生、無茶を言わないでください!
体重をかけるって、トキヤの上に乗っていくってことでしょ!?
そんなの無理!!

「もっと強くしても構いませんよ」
『!?』

だから・・・無理だって・・・

もっと強くしてって
そんなセリフ!

まさかトキヤからそんなセリフをかけられることになるなんて
想像もしていなかった

そんなん妄想の中でのセリフじゃん

奥歯を噛み締めて、必死ににやけそうになるのを堪えながら、もう少しだけ体重をかける

「よし!じゃあ交代だ」

ふう、もう少し時間が長かったらやばかった

「桜田くん、早く横になってください」
『!!』

まってまって!!

トキヤから横になってくださいって!!

そんなセリフ・・・

「・・・桜田くん?」
『!・・・なんでもない』

と、とりあえず、邪な気持ちは捨てなければ

「じゃあ、さっきと同じようにな」

日向先生の声に、心を鎮めながらマットに仰向けになる

『!?』
「?」
『なんでも・・・ない』

トキヤの手が、俺の足に触れた

ストレッチするんだから当たり前なんだけど

足首とふくらはぎに手を添えられ、ぐっと力を込めて足を持ち上げられる

『っ』

膝を伸ばし、天井に向かって足を伸ばす
そのまま、ゆっくりと、トキヤが体重をかける

『いっ・・・』

いたい

多分まだいけると思われているのか、トキヤはさらに力をこめる

か、身体が固くて、これ以上は・・・

「息は止めるなよ。しっかり呼吸しろ」

遠くで日向先生の声が聞こえる

『ふ・・・くっ・・・』

痛いのを悟られたくない

『ふー・・・』

先生の言う通りしっかり呼吸する

「よし、足変えろ」

次は反対の足

同じように

トキヤの手が、体重が、体に掛かるのを感じる

い、いたい・・・

待って、ホントにこれ以上体重をかけられると

『っ・・・』

必死に痛みに耐える
もう一度息をゆっくりと吐いたところで

グッと力がかかる

『ッ!ま、トキヤッ!!きつ・・・』
「!?すみませんっ」

しまった、つい我慢できず声が出てしまった

驚いたトキヤが手を離す

『あ。いや・・・』
「・・・体が固いのですね。先に言ってください」
『・・・ごめん』

そうだよね、先に言っておけばよかった

「それじゃ次だ。背中合わせで、腕を組んで、こう、片方が片方を持ち上げる。背中を伸ばすようにな」

そういいながら、日向先生が生徒をグッと背中に乗せるように持ち上げる
ああ、よく見るストレッチだな

これ、、、やるの??

『・・・』
「・・・」
「・・・ほらそこ、見つめ合ってないでさっさとしろよ」

なかなか背中合わせにならない俺とトキヤにしびれを切らした日向先生が声をあげる

「!」
『!』

見つめ合ってたわけじゃなくて、固まってたんです先生

日向先生の声に背を向けるトキヤ
俺も背中を向ける

「失礼します」
『!』

腕をとられ、肘の関節が絡む
引き寄せられるようにトキヤと背中がくっつく

『・・・』
「先に持ち上げますよ」
『わかった』

真後ろでトキヤの声がする

触れている部分が熱い

こんなにも近くでトキヤを感じて心臓がバクバクいっている

き、聞こえてるんじゃないのか・・・??

「じゃあ、行くぞ、1・2・・・」

日向先生の合図と共に腕が引っ張られる

地面から足が離れ
視界が天井に変わる

このストレッチはさほどきつくはない
むしろ気持ちいいくらいだ

だけどそんなことよりも

『・・・』

俺の全体重がトキヤに乗っている

重くないかな
大丈夫だろうか

「・9・10・・・よし交代」

両足が再び地面につく
たったの10秒なのにものすごく長く感じた

し、心臓がうるさい

「いいか、行くぞ。・・・1・2・・・」

再びカウントが始まる

それを合図にトキヤの体がオレに預けられる

腰を曲げ、しっかりと踏ん張り、受け止める

トキヤの重みを感じる

思ったより重いんだ
細そうに見えるのに、筋肉なのかな・・・

そんなことを考えながらも、心臓は相変わらずバクバクいっている

背中も異常に熱くなっている気がする
は、早く10秒たって!

「・・9・10。よし!いいぞ!」

腰を戻すと背中からトキヤが離れる

はあ、これ以上くっついてたらどうにかなりそうだった・・・

「次は柔軟だ。お互い向かい合って座って、出来るだけ開脚する」

お手本として日向先生と男子生徒が向かい合って座る
日向先生、足長っ

「できるだけ足の裏を合わせるようにして、手をつなぐ」

手を
繋ぐ・・・?

「まずは片方が、体をつかってゆっくり引く。そして、10カウントする」

日向先生手引くと男子生徒の体が前屈の姿勢になる

「引く方もただ引くだけじゃだめだ。腹筋を意識して、ゆっくりと後ろに倒れるようにな」

結構、きつそう・・・

「10カウントしたら、ゆっくり戻る。で、交代だ」

日向先生のわかったか?という問いかけに、はーい、と言いながらポジションにつく生徒たち

『・・・』

今度は手を、繋ぐのか・・・

目の前にトキヤがいると思うと、どうしても躊躇してしまう

「・・・はぁ」
『!』

ため息をつかれてしまった

「そんなに私とは、やりたくありませんか」
『・・・は?』

目線をはずして言うトキヤ

「いえ。なんでもありません。皆さんを待たせてしまっているので、早くしてください」
『・・・ごめん』

ばっちり聞こえちゃったけど
き、聞こえなかったことにしよう・・・

「・・・」
『・・・』

お互い無言で座り、足を合わせ、手を握り合う

『・・・っ』

トキヤの足が長いからか、俺の体が固いからか、かなり開脚しないと足が合わない

き、きつい

が、それよりも問題なのが

手!!
トキヤの手!!!

すこし落ち着いていた心臓がまたうるさくなりだした

「・・・引いてください」
『・・・』

どうやら俺が先に引く方らしい

トキヤの手をしっかりと握り直し、腕をゆっくりと引く

前屈するトキヤの髪が、サラッと落ちる

あまり引く必要もないくらい、自然に前屈をするトキヤ

やわらかいんだな

あと、手がとても冷たい

「・・・カウントはしていますか」
『!あ、ごめん』

わ、忘れてた!

トキヤを意識しすぎて10カウントするのをすっかり忘れてしまっていた

「・・・もういいです」
『・・・ごめん』

そういいながらゆっくりと起き上がる

『・・・』

ああ、俺はなんてことを・・・

しっかりしなくては・・・

「・・・引きますよ」
『・・・』

次は俺の番だ

ゆっくりと腕が引かれる

体は前へ
徐々に前へ・・・

『っ・・・』

足を開いて座っているこの状況でさえ、辛いというのに

ゆっくりではあるが確実に体が悲鳴を上げている

『・・・ぅ』
「・・・桜田くん、あなたまさか」
『!!』

まだカウントも始まらない位置で、弱音を吐くわけにはいかない!!

「・・・無理はいけません」
『無理じゃない』

トキヤの引く手が止まる

それを無視して前に倒れようとする俺

「・・・桜田くん」
『・・・』
「桜田くん」
『もっと引っ張って』
「・・・」

まだいけるはず

『んっ・・・ふっ』

苦しい
けど
情けない姿は見せたくない

『・・・んんっ』

決めた
これからは毎日お風呂上りに柔軟ストレッチしよう

「・・・っ」
『ふっ・・・はぁ・・・んっ』

息は止めちゃだめなんだったな
もう少しいけそうだから、引っ張って

「・・・桜田くん」
「郁斗!!」
『!?』

目を閉じて必死に前に倒れようとしていると後ろから肩を引かれる
そして音也の声

『・・・?』

何故か顔を赤くして怒っているような音也

「とても、刺激的だね」

若干笑いながらいうレン

というか
何故かみんなの視線が俺達、というか俺に?向いていた
え?なんで??

「んんっ。あー桜田」

咳払いと眉間にしわを寄せ険しい顔をしている日向先生

「無理は、するな」
『・・・はい』

怒られた??の??

「ほら、一十木。自分のところに戻れ」
「・・・はい」

なぜかずっと怒ったような顔で見下ろしていた音也が、翔のところに戻って行った

なんか言いたそうだったな・・・

「・・・手、もういいですか」
『・・・あっ。ごめん』

なにがなんだかわからなさすぎて、ずっとトキヤの手を握っていた俺
トキヤに言われてようやく手を離した

「・・・」

トキヤも何か言いたそうに俺を見ていた

「気を取り直して、次に行くぞ」

その後もいくつかストレッチをした
日向先生に無理はするなと言われたから無理はせずできる範囲でやった

問題児にはなりたくないから、その後は真面目に、心を無にして授業を受けた
ただ、終わりまでずっとドキドキは止まらなかった

・・・これ、来週もあるのか・・・





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