世界で一番恋してる

□1日
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「あと五秒やで!」

『やっとか』





1月1日





「あけましておめでとうさーん!!」

『おめでとう』

たった今新しい年が始まった

「なんや、彼方、ノリ悪いでぇ?」

部屋のテレビはガキ使を映しとる
この番組ほんま最高やわ
特に蝶野んとこな!あそこは毎年笑てまうわぁ

それやのに、この子はなんでふてくされてんねん

『はぁ、なにが悲しくてお前と年越ししなきゃいけないんだよ、しかもこんな…』

「なんやねん!記憶に残る年越しやん!」

『確かに記憶には残るけど…なんで手…』
年またいで繋がっとるとか、恋人同士みたいで素敵やん!
恋人居ないもん同士なんやし、少しでもいる気分になりたいやん

あ、もしや彼方…

「他んとこ繋がっとった方がよかったか?」

体繋げて年越しな
ええなぁ、やってみたいわぁ

『…外に閉め出すぞ』

「じょ、冗談やんかぁ」

そない睨まんでも…

『ったく、新年早々最悪だなお前』

溜め息混じりに言いながら、俺の手から放れる彼方の手

「あぁ〜」

『変な声出すな』

せやかて、そんな、サラッと放さんでも
もうちょっとこう、名残惜しそうに、なぁ?

と思ったら急にコタツから出て行く彼方

「どこいくん?」

『鐘、聞こえるかなーっと思って』

庭に繋がる窓の前に立ちカーテンを開ける

「鳴ってる?寒っ」

俺もコタツから出て彼方のもとへ
窓を開けると冷たい空気が室内に流れ込んできた
うおー寒っ!雪降らへんかこれ!
目の前には彼方の背中……

『寒……!?…蔵ノ介』

俺よりほんの少し身長の低い彼方
その彼方の肩に顔をうずめる俺

「んー?」

『んーじゃなくて、何してんだ』

「暖とってるだけや」

腕を腹に回してギュウッと抱きしめた
ええ匂いすんなぁこいつ
同じもんで体洗っとるはずやのに
フェロモンか?

『俺の体温奪うな』

「彼方も俺の体温奪ったらええやん」

さらにギュウッと抱きしめる
あったかー

『言ったな』

肩に顎を乗せてるため、真横にある彼方の顔が不敵に笑った

「ん?」

色っぽ…
怯んで緩んだ俺の腕の中でクルッと向き合う形になった彼方

『くらえっ!』

正面の彼方から腕が伸びてきて、冷たい彼方の手が、俺の、首にっ!?

「ひょあっ!?冷たっ!冷たい!まてまて、やめい!!」

すぐに手は離れたけど…
冷ったー!

『あっはは!ひょあっつったぞお前!あははは!』

室内に戻りお腹を抱えて大笑いする彼方

「わ、笑いすぎや!!」

あー、あんな恥ずかしい声…不覚や…
それから数分彼方は笑い続けた
どんだけツボハマっとんねん!!

『あー面白かった、まさか初笑いが蔵ノ介とはな』

「嬉しないわっ」

くっそー
いつか彼方の恥ずかしい声イヤっちゅうほど聞いたるからな!

『悪かったって、なんか食うか?うどん作る?』

「うどんて。年越しそば食うたやん」

『なんか最近年明けうどんが流行ってるとか…』

年明けうどんん?なんやそれ!!

「そうなん!なんやそれ知らんかった!ほんまか?」

『さぁ?知らね。腹が減ったから食う、それだけだ』

お、おぉ、知らんのかい

「なんや、かっこええな彼方」

『お前は食べるか?』

「あー、この時間に食うんはあんま健康上ようないんやけどなぁ…」

やって深夜やで?
不健康すぎるわ!

『いいじゃん、新年くらい。どうせ寝ないんだろ?そっちのが不健康じゃん』

「それもそうや…ま、ええか、じゃあ食う」

今日だけ、今日だけやで!

『はいはい、食べ終わったらトランプでもするか』

コタツから抜け、立ち上がりキッチンへ向かう彼方

「お!ええなぁ!じゃあ俺トランプ探してくるわ」

『あぁ、』

そうして、彼方の作ったうどんを食べて
その後はトランプやらUNOで時間を潰した

『そろそろ日の出か?』

「あ?もうそんな時間か…寒いけど外行くか」

『蔵ノ介、ダウン着てけ』

「おぉ、おおきに」

そう言って俺に黒いダウンを手渡す彼方

「せや彼方!あれ着てや!」

『あれ?』

「俺がクリスマスにあげたやつ!」

まだ一度も着たとこ見たことないしなあ
…って、彼方の顔がみるみる渋い顔に…

『……あの嫌がらせ意外の何物でもないあれをか?』

「せ、せやから、わざとやないんやって…」

俺がクリスマスにあげたプレゼント、それは
チェックのダッフルコート
彼方に言われて、女物だとわかった

『見りゃわかんだろ』

「……すまん」

やって、彼方が着たらめちゃめちゃ似合うんやろなと思ってんもん!
そんな嫌がられると思わんかった…

『……わかったよ、着るよ…誰かに会うわけじゃないしな』

渋々といった感じだがどうやら着てくれるようだ

「ほんまか!」

『あぁ』

よっしゃ!

「おおきに!」

『ま、暖かいからいいか』

そう言ってコートに袖を通す彼方

優しいなぁ

って、ちょ!!
こらあかん!
似合いすぎやろ!
女子か!

ああ、彼方行ってもうた

「庭から日の出見えるなんて、この部屋最高やなぁ!」

『周りに高い建物ないからな、家賃は高いけど』

「うまい!」

『どこがだよ』

「なんで喜べへんねんなー、関西人がうまい、言うてるんやで!彼方今年はもうちょい素直になったほうがええで」

『………そっか』

またなんや言い返されるんやろなーと思ってたら

「!?ど、どないしたん」

『は?お前が言ったんだろ、素直になれって』

「せ、せやけど…」

素直な彼方
これは、これで、なんやあかんわ

『??』

心臓がワサワサする
なんやこれ!

「ま、まあええわ!あ、明るなってきてる!」

『ホントだ、綺麗だな』

「せやね」

ここで、お前の方が綺麗やで
なんて言うんやろなあ、世の男は

多分跡部君とかやったら
さりげなく肩とか抱いてサラッと言うてまうんやろうなぁ

彼方もやっぱそんなんされたら嬉しいやろか?
いや、女の子やないし、ないか

よっしゃ、ここは彼方で練習させてもらお!

「あー…おほんっ」

『ん?』

「彼方のっ、方が、きゃれっ…やで…」

『あ?』

「いや、なんも」

噛んでもうた
大事なとこで噛んでもうた
今年の俺、もうあかんわ
こんなんじゃ一生彼女なんか出来へん

『蔵ノ介』

「んん?!」

落ち込む俺の左手を包む冷たい彼方の右手

『今年も、よろしく』

俺の方は一切見ず、白い息を吐きながら彼方はそう言った

「こ、こちらこそ…よろしゅう」

な、なんや、トキメク

『…とかやるんだよな、世の男は』

「え…」

『ときめいた?』

「んっ、んなわけあるかい!」

『ふっ…寒い』

不適に笑ったあと、俺から手を離した

「部屋戻るか」

『あぁ』


久しぶりに恋人気分を味わったような…

ま、相手男やねんけど

つか、コイツかなりのテクニシャンやな
こうやって女の子落とすんか…
なるほどな


そのあとコタツに戻り、

気付いたら昼過ぎだったのは言うまでもない














「おはようさん、」
『はよ』
「ほなあらためて、」
「『あけましておめでとう。今年もよろしく
』」


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