世界で一番恋してる

□3日 am
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1月3日 am





『んじゃ、行ってくる』

「いつ帰ってくるん?」

『一泊するだけだから、明日には』

「ほーん」

『あぁ』

「わかった…ほな…気ぃつけて…」

『蔵ノ介も実家帰ったら?』

「…彼方おらへんし、そうしよかな…」

そんな蔵ノ介との会話が1時間ほど前に、俺の家で行われた

今俺は神奈川に向かう新幹線の中にいる

「正月くらい帰って来んか馬鹿者!!」

なんて双子の兄、弦一郎に偉そうに言われて渋々実家に帰るところだ

『もうすぐつくか』

停車駅のアナウンスが流れた
新幹線がとまり目の前の扉が開く

「お帰りなさい彼方兄さん、あけましておめでとうございます!」

俺を出迎えてくれたのは、ガミガミ口うるさい双子の兄ではなく、

『ただいま、あけましておめでとう花音』

俺の可愛い妹だった

『弦一郎はどうした?』

あいつ、帰って来いって言ったくせに、出迎えはなしかよ

「弦ちゃんは今、昔の友達が来てるとかで、手が離せないと…」

『はぁ?』

人のこと呼び戻しておいて、友達と遊んでるだと?
しかも女の子1人でこんなとこまで来させるなんて

『帰ったらまず、説教だなあの馬鹿』

「クスクス、相変わらずですね彼方兄さんは」

『そうか?』

「お正月なんですから、ケンカはなしですよ」

『…そうだな』

弦一郎に文句は山ほどあるが、花音に免じて今回はなにも言わないでおこう

「さぁ、参りましょう」

『悪いな、寒いのに待たせて、これ使え』
「兄さんのマフラー…ありがとうございます」

俺は自分のしていたマフラーを花音の首にまいてやった

すれ違う人達が羨ましそうな視線を送ってくる

当然だ。花音は可愛いからな

「ふふ、恋人同士みたいですね」

『花音なら大歓迎だ』

「でも弦ちゃんが怒っちゃいますね」

『あ?ほっとけあんなやつ、弦一郎に花音はもったいないよ』

「あら、違いますよ?彼方兄さんは俺のだって、私が怒られちゃうんですよ?」

『あぁ?なんだそれ、あるわけないだろそんなこと』

つか、あってたまるか気持ち悪い

「彼方兄さん、眉間にしわ、よってますよ」

『花音が変なこと言うからだ』

「ふふ、(事実なんですけどね)」

『なんだ?』

「いいえ」

クスクス笑う花音だが、俺と弦一郎が恋人とか、冗談でもやめて欲しい

まぁ、双子だし、仲悪いし、絶対有り得ないことなんだが

「そろそろつきますよ」

『前帰ってきてから1年たつけど、あんまり景色変わってないな』

「でも、あそこにあったケーキ屋さんがなくなってしまいました」

『ああ、あった気がするな。花音好きだったから、残念だな』

「はい」

高校を卒業してすぐ、俺は家を出て、大阪へ行った

理由?

弦一郎と一緒に居たくなかったからに決まってるだろ

もちろん母親にも、弦一郎にも大学に行け、と反対された

その反面、じーさん(祖父)や1番上の兄さんは大賛成だった

いや別に出てって欲しかった訳じゃなくて、いろんな経験が出来るだろうってことで
親父の許可もおりたので、生活費などを全部自分でなんとかするという条件で大阪に引っ越すことになった

『1年か…』

「つきました!」

景色を懐かしみながら歩いていたら、嫌というほど見覚えのある建物が目に入った

『大阪に行って気付いたんだが、この家、でかいよな』

「そうですか?」

まぁ、毎日見てるんだし、これが普通になっちゃうよな

「彼方兄さんが帰って来ましたよー」

花音が玄関から中に声をかける

「お帰りなさい、それからあけましておめでとう、彼方」

『あけましておめでとうございます、母さん』

「1年見ない間にまた大きくなったわね」

『そうかな?自分じゃわかんないな』

「ふふ、かっこよくなっちゃって、弦一郎も驚くわ」

「彼方兄さん格好いいです」

『母さん、花音…』

身内に格好いいって、真田家の女性陣はちょっとどっか抜けてるよな

「さぁさ、そんなところに突っ立ってないで、あがりなさい」

『弦一郎は?そういえば誰か来てるんだって?』

「そうなのよ、中学の時の部活の子たちみたい。居間にいるから挨拶してらっしゃい」

あとでお茶持って行くから、と言い残し母さんは台所へ消えていった

「私もこれで」

『行かないのか?』

「はい、お友達と初詣に行くんです」

『そうか、気をつけてな』

「はい」

そうして花音もいなくなった

自分の部屋があるわけじゃないから、荷物を持ったまま居間へ向かう

「あれ、アンタ誰?」

『…』

居間に繋がる廊下を歩いていたら、突き当たりのトイレから人が出て来た

アンタ誰って
お前こそ誰だよ

どうみても年下だよな、礼儀はどうした礼儀は
こいつは俺がお前より年下に見えるのか

「??喋れねーのか??」

『んなわけあるか』

「じゃあなんで喋らねーんだよ!!」

『お前年いくつだ』

「は?19だけど?」

『そうか……たるんどる!!!!』

「いっ!!って、もしかして彼方さん?」

ははっ、ビビってるビビってる
って、ん?なんで俺の彼方

「やっぱり!!彼方さんッスよね!俺ッスよ俺!切原赤也ッスよ!」

『赤也…誰?』

「なっ!」

「なにごとだ赤也!」

赤也の背後から、俺らの声を聞きつけて弦一郎がやってきた

『ああ、弦一郎この馴れ馴れしいの誰だ?』

「おま、彼方!!いつの間に帰って来てたんだ!?」

『自分で時間指定したくせに、なに寝ぼけてやがる。てかお前、老けたな…』

「な!!なんだと!!」

うん、絶対老けた
1年前はもうちょっと可愛げがあったような

『一体いくつになったんだ?』

「何を言う!俺たちは双子だろう!!」

『あぁ。そーだったそーだった』

「貴様は1年もたったというのに相変わらずだな。顔ばかりよくなりおって」

『あ?なに、褒めてくれてんの?』

「ち!違う!!嫌味だ馬鹿者!!」

こいつと顔合わせると大抵言い合いになる
そりが合わないんだよ

顔も体付きも似てないし

ただ、こいつをからかうのは面白い

「ちょっとちょっと!!無視しないで下さいよ真田先輩!」

で、結局このうるさいのはどこの誰だ?

「彼方、いただろ、中学の時後輩に」

「テニス部で、お世話になってました!」
『ああ、あのモジャモジャ』

「!!切原赤也っス!」

『悪い悪い、赤也。お年玉やるから』

「マジッスか!やった!!」

たかが500円でここまで喜ぶとは
気に入ったぞ赤也

『デカくなってたからわからなかったんだよ。中身は相変わらずだな』

あれ?バカにしてます?!と言う、赤也のモジャモジャ頭を俺は撫でた

うん、やっぱり触りがいのある髪してるな

「!?(やっぱ笑顔超キレイ…)」

「どうした赤也、熱でもあるのか」

「そそそ、そんなんねーっすよ!!」

『で、学校のヤツって赤也だけか?』

「ああ、いや、テニス部の奴らが来ている」

『……………』

「まさか、誰のことも覚えていないのか?」

幸村と柳はさすがに覚えてる、幼なじみだしな

後は確か……

うん、だめだ、思い出せない

だいたい俺テニス部じゃないし
きっと顔見たら思い出すだろう

『ここ寒いから早く部屋に行きたいんだが』

「あ、ああ、そうだな(話そらしたな)」
「…(やっぱ全然似てない)」

弦一郎の後に続いて居間へ向かう

やっぱりこの家広いよな

「遅いぜよ、なにしとったんじゃ?おお??」

居間に入った途端そんな声が聞こえてきた
そして一斉に視線を浴びる俺

「すまない、ちょうど彼方が帰って来てな、立ち話を…」

部屋は人数がいるせいか、かなり暖かい
やっとひと息つけそうだ

「彼方君!!久しぶりですね!あけましておめでとうございます」

『ん、ああ、久しぶり。おめでとう柳生』

「おや、覚えててくれましたか」

『ああ。(敬語キャラだしな)』

まず早速挨拶をくれたのが、眼鏡をかけた柳生比呂士

初対面からずっと礼儀正しかったから覚えていた

「彼方!!あけおめ!!今年もシクヨロ☆」

『………あ、ブン太、コトヨロ』

「おい!!今ちょっと忘れてただろぃ!!」

んん、ギリギリセーフってところか

「久しぶりだな、元気にしていたか」

『ああ、元気だよ、お前も相変わらずそうだな蓮司』

「お前は変わったな彼方」

『え、そうか?』

「ああ、美人に磨きがかかっているぞ」

『…うん、お前は昔からそんなんだったな』

「後で色々聞かせてくれ」

柳は昔から俺のこと綺麗だの可愛いだの言ってくる、変な奴だった
うん、相変わらずだよ

「プリッ」

『……』

「なんじゃ、俺のこと忘れたんか?」

『ああ、忘れた』

「またそんな事言って、俺のこと好きなんは昔も今もバレバレじゃき」

『忘れた。』

いや、忘れたいが正しいか

こいつはことあるごとにセクハラしてくる変態だった

男のケツなんて触って何が楽しいんだ、と毎回思っていたくらいだ
てか正直苦手だ

「さみしいのぉ。なぁ、ジャッカル」

『…………誰だっけ』

「!!おい、冗談だろ!!」

『いや、ごめん、リアルに誰だっけ…ボビー君??』

「見た目で言ったろ!!」

「俺より不憫なやつがおったか」

この人に関してはホントに覚えていない
だってまじで中学卒業以来会ってない

他の奴らはなんやかんやで去年もあってるからな

つかこんなに濃い顔してんのにどうしてわからないんだ…

男は顔やない!キャラや!!
って言ってた蔵ノ介の言葉の意味がやっと理解できた

うん、性格って大事だな

「ジャッカルだよ!!ジャッカル桑原!どうだ!思い出したか……」

『あー………うん、桑原君…ジャッカル君?思い出した思い出した』

「ぜってー思い出してないだろぉ!?」

ジャッカル君のメモリーはこれから作り上げて行くよ、うん
てか、大阪にきたら、きっといい突っ込み役になれると思う

「あー、おほん、挨拶もすんだところで…」

『そういや精市は?来てないのか?』

居ないよな?

弦一郎の言葉を遮りみんなに問う俺

「幸村君は今海外に居るそうです」

『海外?留学したのか』

「留学というか、向こうでホームステイしてるらしいですよ」

『へえ…スゴいな。弦一郎なんかより精市に会いたかったんだけどな』

「なんだと!」

弦一郎が叫ぶ

「そうじゃ、せっかくじゃし、初詣でも行かんか!」

「お!いいっすね!!」

「赤也!勉強はどうした!」

「うっ…」

『なに、みんな集まって勉強してたのか?正月から真面目だな元テニス部軍団は』

ゲームでもしてんのかと思ってたが勉強だったか

「そうっスよ!正月からなんてやるもんじゃないっスよ!ね!彼方さん!」

「赤也ー、もとはと言えばお前が単位落とす、とかって泣きついてきたのが原因だろぃ!」

「な!丸井先輩もじゃないっすか!」

「俺はお前のせいでとばっちりくらって!!」

「貴様らどっちもたるんどるはー!!」

ああ、単位落とすなんて弦一郎に言ったこいらが悪いな

「とばっちりはこっちじゃき」

「そうだな、まさか正月から勉強を見る為に呼ばれるとはさすがの俺でも思わなかった」

『全く弦一郎は固いんだよ、じじいか』

こんなんじゃ友達無くすぞ

「なんだと彼方!」

『もっと正月らしいことしろよ、勉強の事は忘れてさ』

「さすが彼方さんっす!双子とは思えないっす!」

「赤也あああ!」

「ひぃ!すんませんん!」

赤也は一言多いな

とにかく、正月からノートと睨めっこしながら部屋に引きこもるなんて間違ってる

『というわけで、初詣行かねえか』

「いいですね、行きましょう真田君」

「む…仕方ない今日くらいいいか…」

「やりぃ!早速行きましょう彼方さん!!」






















「とりあえずやってるレポートを片付けてからだ」
「げっ!まじっすか!?」
『なんだ、まだかかりそうか?』
「その間に支度しておきましょうか」


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