世界で一番恋してる

□4日
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1月4日





『見送りとか、べつにいらねえのに』

「いつもこのくらいの時間に起きる、そのついでだ」

『あっそう』

目泳がせながら言われてもねえ

「忘れ物はないか?」

『ああ、もともと荷物少なかったし』

「そうか、寒くはないか」

『大丈夫』

「あー、あれだ、こまめに連絡よこすんだぞ」

『……お前は俺の母さんか』

同い年の兄弟にここまで過保護になるもんか?

「…やはり駅まで送って…」

『あー、いい!いい!いらねえよ!1人で行った方が早いし!』

「そ、そうか」

あからさまにがっかりしやがって

『はぁ、生活も落ち着いてるし、今年はちょくちょく戻ってくるから』

「……ああ」

『大学頑張れよ、じゃ』

これを最後にようやく足を進める俺

「達者でなー!!」

『…近所迷惑なやつだな…』

遠くから聞こえる弦一郎の叫ぶ声

達者でなって、何時代の人間だよ

こうして、俺の里帰りは終わった



ところ変わって新幹線

もうすぐ大阪駅だ
さっきアナウンスが流れた

1日なんて、あっという間だな

懐かしいやつらにもあえたし、今年はちょくちょく帰ろうかな

そんな事を考えている間に、駅についたらしい

荷物を持ち、新幹線からおり、改札に向かう

切符を通し、改札を出た

直後

「彼方ーーー!!」

『うおっ!?』

猛ダッシュで現れた蔵ノ介に飛びつかれた

「彼方!!元気やったか!寒かったやろ?体調崩してへんか!俺、お前に会いたくて会いたくて、震える!」

『ちょっ、落ち着けって!』

さすがに人が多くて恥ずかしい!!

つか、変な目でみられてるだろ!

そりゃそうだ、男同士で抱き合ってたら、誰だって変な目でみるわ!

『離れろっばか!』

「馬鹿はないやろ馬鹿は!つか、ノれや」

『ノるってなんだよ』

「久しぶりに会った恋人っちゅー設定、西野カナ的な」

『なんだそれ、ああ、だから震えるか。いや西野カナは結果会えないんだよ。って、どーでいいわ1人でやってろ』

つまらんやっちゃなー、などと言いながら蔵ノ介は頬を膨らませた




そんな蔵ノ介をなだめた俺は今、自宅に向かって歩いている

「ちょっと遅ない?」

『始発だっつーの』

こいつふざけやがって
こっちは五時起きで帰ってきたっていうのに

「で、兄弟には会えたんか?」

『そりゃあな、実家帰ったんだから』

「ほーん」

『ほーんって。興味ないなら聞くなよ』

あからさまにつまらなさそうな顔の蔵ノ介

『それで?今日はこの後どうすんだ?』

「年明けてからなんやバタバタしとるし、今日は家でまったりせーへん?」

『あー、確かにな。俺も昨日の里帰りで疲れたし』

「俺も昨日いろいろ大変やってん」

はあ、とため息を吐きながらしみじみ言う蔵ノ介

『何かあったのか?』

「金ちゃんたちが来てん」

『金ちゃんたち?』

「中学ん時のテニス部のやつら」

『ああ』

話を聞いていると、どうやら蔵ノ介も、俺と同じような昨日を過ごしていたようだ

「せや、みんな彼方に会いたがってたで」

『みんなって?』

「謙也とか、財前とか。金ちゃんもやし、」

『そういや全然会ってないな』

「今度遊びにくるらしいわ」

『家に?』

「おん」

『俺バイトあるから、あらかじめ言えよ?』

「わかっとる」

そんな話をしている間に自宅についた

「ただいまっと。うう、寒!」

『あ、なんか飯買ってこればよかったな…』

時刻は昼ちょっと前
腹減った

「まだ餅あるで?」

『じゃあ、餅焼くか』

そう言って俺は、お徳用の切り餅片手に台所に立った

蔵ノ介はコタツに入ってテレビを見ているようだ

手伝えよ

『蔵ノ介、暖房つけて』

「はいはいっと、…ん?彼方、携帯なってんで??」

『電話?投げて』

「行くで?ほいっ!」

『どーも』

蔵ノ介から携帯を受け取り本体を開く

『(仁王…?)もしもし』

【もしもし、彼方か?昨日ぶりじゃのー】

『そうだな、どうした?』

【そろそろ家ついたころかと思って。無事帰れたんか?】

『ああ、ベストタイミングだよ。ありがとな』

【それはよかったぜよ!あ、彼方いつまで休みなんじゃ?】

『明後日までだけど?』

【なんと!じゃあ次の連休はいつになるんじゃ?】

『取ろうと思えばいつでも取れるけど……』

【じゃあ来月くらいに行くぜよ!休みとっときんしゃい!】

『はいはい、わかった』

【それと香水好きなんじゃよな?】

『?急になに?』」

【好きじゃよな?】

『……好きだけど…お前も好きだよな?』

【ああ。彼方にピッタリの見つけたき、それも持ってくぜよ!】

『ホントか?ありがと、じゃあ、会えるの楽しみにしてるよ』

【楽しみにしとき!じゃあまたメールするナリ】

『ああ(初めからメールで良かったんじゃ…)』

携帯を閉じ、餅をひっくり返す

「おほんっ」

『!?いつの間に背後に…餅ならまだだぞ』

気付くとすぐ後ろに蔵ノ介が立っていた

「い、今の電話、誰なん?」


何故か視線をキョロキョロとさせ、挙動不審に訊ねてくる蔵ノ介

『は?…なんで』

「い、いやあ……もしかして、か、彼女?とかか?」

『…………………はあ?』

突然なにを言い出すかと思えば

「やって!好き、とか!言うてたやん電話で!!」

『??ああ…』

さっきの雅との香水の話か
こいつめちゃくちゃ勘違いしてるな
おもしろ

『だったらなに?』

「え?」

『俺が誰と付き合おうがお前には関係ないだろ?』

「!?」

一瞬目を見開きヨロッとよろめいた蔵ノ介は、そのままコタツへと戻っていった

なにをそんなダメージ受けてるんだよ

『はぁ、仁王だよ。いただろ?立海のテニス部に』

焼けた餅を皿に盛り、醤油と砂糖をかけコタツへ運ぶ

「仁王って…、確か、全国大会で不二君と戦ってた、ペテン師…」

『そうなのか?知らねーけどたぶんそれ』

蔵ノ介の前に箸を置き俺もコタツに入る

「え?…えっ!彼方、仁王君と付き会うてんの!?」

少し考えた後、ガタッとコタツから身を乗り出す蔵ノ介

『…なんでそうなる』

「ややややって!仁王君に好きとかっ!…えっほんまに!?」

『なにテンパってんだよ。んなわけないだろ』

箸で人を指すな、行儀悪い
それを軽く流しながら餅を食べる俺

「どゆことや?」

『好きって言ったのは別の話。別に仁王が好きって意味じゃねぇよ』

「な、なんやそうやったんか」

納得したのか、再びコタツへと腰を下ろす蔵ノ介

『だいたい俺が男となんか付き合うわけないだろ』

「せやねー。あー驚いた、餅食うてる最中やなくてよかったわー」

カラカラと笑いながら餅に箸をつけた
こいつ、さっきまで大騒ぎしといてなに笑ってんだムカつく

『詰まらせて死んだらよかったのにな』


「何ちゅーこと言うねん!」

まあ、冗談だけど

『てかなにをそんなに焦ってたんだよ。もしかしてお前雅の事好きなのか?』

「は?それこそなんでそーなるん」

『いや、嫉妬したのかと思って』

だって、異様に食いついてきたし、ショック受けてたし

「んなわけないやろ!俺は、彼方なんかに先越されんのがいやなんや!(たぶん…)」

また[なんか]って言ったなコノヤロ
喧嘩売ってんのか

『あっそ。勝手に言ってろ』

「またそうやって、冷たい返事するー」

黙って食え、と蔵ノ介を一喝して俺は2つ目の餅にかぶりついた

絶対コイツ[なんか]より先に恋人作ってやる























「で、何を好きやって言うたん?」
『なんでもいいだろ別に』
「(なんでそこ秘密なん)彼方のアホー」
『シネ』


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