世界で一番恋してる

□7日
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『ありがとうございました』

「お疲れ様彼方君!そろそろ上がってくれていいわよ」

『あ、はい、お疲れさまです』






1月7日






店長にそう言われ、上がる準備をしに更衣室に戻った

コンコン

「はいってもいいかしら?」

というノックと共に顔を覗かせたのは
さっき挨拶をした店長だった

『どうぞ、もう着替え終わりましたんで』

「はいこれ!」

『・・・?なんですか?』

唐突に紙袋を差し出された

「七草セットよ!」

『七草・・・セット?』

ニコニコしながらまたワケのわからないことを・・・

『くれるんですか?』

「うん!彼方君、いつもコンビニ弁当なんでしょ?」

そんなことはないが、めんどくさいから訂正はやめておこう

「たまにはこういう伝統行事にそってちゃんとしたもの食べなきゃダメよ?」

『ああ、七草粥ですか』

「あら、知ってるんじゃない!」

まあ、それくらいは
なんたって毎年実家で食べてたからな

「それにほら!一緒に住んでるっていう子!」

なぜが急にテンションをあげてきた

『はあ、それが?』

「その子に作ってあげたらいいじゃない!!家庭的な彼方君を見たらきっとこう、グラッとなっちゃうと思うわ!!」

『・・・グラッと、ですか?』

「そう!グラっと」

グラッともなにも、相手男なんだけどな
しかも、たしかこの前そういったはずなんだけど・・・

『はあ、いただけるのなら、ありがたくいただきます』

「ええ!作り方は大丈夫かしら?」

『だいたいわかります。』

「だいたいじゃダメよ!!ちゃんと完璧に作らないと!!」

なんでこんな真剣なんだ・・・・?

それから、事細かに作り方を教わり、気づいたらタイムカードを切ってから1時間も経っていた

「わかったかしら!これで完璧よね!!」

『あ、ありがとうございます・・・』

「いいのよ!うまくいったら教えてちょうだいね!」

うまくいったら・・・か
簡単なレシピだから失敗する方が難しいけどな

『わかりましたよ』

「言っとくけど、料理の話じゃないわよ」

『え?』

「んもう!!同居してる子の話よ!!」

『はあ・・・』

なにをうまくいったら??

「ふふっ!期待してるわよ!!」

それだけ言い残して店長は去っていった

『・・・俺は一体なにを期待されているんだろう』

ようやく解放された俺は皆に挨拶をしたあと店を出た












『ただいま』

「なんや、遅かったな。18時上がりなんやなかったん?」

休み明けに提出するレポートをやっとったところに、彼方がバイト先から帰ってきた

『いや、ちょっとな・・・』

今の時間は19時過ぎ
なんや疲れた顔してんな
忙しかったんやろか?

『飯は?食った?』

「まだやけど」

『そうか、よかった』

そう言って彼方は直接台所に立った

よかった?

「どないしたん?」

こたつから抜け出し、彼方の後を追う俺

「なんやそれ?」

ガサガサと袋から出てきたのは

『七草セット』

七草セット?

「七草?ナズナとか、スズシロとかのあれか?」

『流石、草には詳しいな。今日7日だろ?店長が、なんでか知らないけどあげるって』

「ほーん。で、七草粥でも作るん??」

『ああ』

「お前、こういう行事ちゃんとやんねんな」

『実家にいたころは恒例だったからな』

さすが、真田家、そんな感じするわ

「手伝う?作り方しらんけど・・・」

『いや、いい。作り方なら嫌と言うほど聞いてきたから大丈夫』

そういう彼方の目はかなり死んでいた

ほんま何があったんや?

「疲れてんなら俺やるで?」

『いいって、レポートやってろよ』

ああ、気づいてたんか

「・・・ほなお言葉に甘えて」

『おお』

エプロンをつけてせっせと料理の準備はじめる彼方
ほんま大丈夫かいな

とは思いつつも、早う終わらせなあかんレポートのために俺はこたつへ戻った


数十分後、ええ匂いがしてきた

『蔵、運んで』

「おん」

彼方に呼ばれ、台所からこたつまで出来上がった料理とお茶を運ぶ

「おっ!干しえび入ってるやん」

『そのほうが美味しいんだって、ついでに貰ったから』

「ええ匂いやなあ」

それにしても、ちゃんと土鍋で作るあたり本格的やなあ

机の上のレポートも一旦片付け、食事の準備が整った

『じゃ、食べるか』

「いただきます!今日のはかなり体に良さそうやなあ」

『そうだな』

そう言って土鍋から粥をよそう彼方

「おっ!これはセリやな!セリは湿地なんかに自生しとる草でな、解熱作用なんかがあんねん!」

『・・・いいよ、そういうの』

全く興味なさそうに粥を口に運ぶ彼方

なにいうねん!俺の得意分野やで!

「ええから聞きや!ゴギョウはキク科の草でなあ、ハハコグサとも呼ばれとって・・・」

それから俺は食べ終わるまで延々と七草について彼方に語った

彼方が全く聞いていないにも関わらず

「はあ!うまかった!うまくてしかも健康になれるやなんて、一石二鳥やな!!」

『ああ、あとはお前が静かに食ってくれたら言うことなしだったな』

あれ?なんや、怒っとる??

「彼方?怒っとる?」

『別に怒ってはないけど。蔵の好きな分野だからテンション上がるの仕様がないし』

おお、ようわかってくれてるわ

「す、すまんな、ちょっと夢中になってもうた・・・」

『だからいいって。後片付け頼むな』

「・・・おん」

そういって彼方は風呂場へ消えていった

ま、ええか。

七草粥食って健康になった気いするし、彼方が風呂から上がったら今日ははよ寝よ!!















「同居人の子、どうだった!」
『・・・ちょっと嫌いになりました』
「!?なんで!!」
『(草マニアなのも考えものだな・・・)』
「(はっ!もしかしてなにかされたのかしら!?)」


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