世界で一番恋してる

□8日
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『ただいま』

「おかえりー」





1月8日





「帰宅そうそう忙しいやっちゃなあ」

午前だけのバイトから帰ってきてすぐ、なにやら忙しそうに動き回る彼方

『なんにも準備してなかったからな』

「??(なんの準備や?)あ!せや、俺明日成人式やから家開けるで」

思い出したように唐突にそういう白石

『ああ、俺もでるよ。つか、今そのための準備してるんだけど』

「あ。そうやったんか。明日実家行くん?」

どうやら彼方も明日の成人式にはしっかりと出席するようだ

『いや、今から』

「え?」

『言い忘れてたけど、今日の13時の新幹線で実家行くから』

「ええ!何も聞いてへんし!」

『だから、言い忘れてたんだって』

「13時て、もう家でなあかんやん?」

『そうだな』

小さめのトラベルバッグに荷物を詰め込むなど、せかせかと動き回る彼方

「(せやから今日バイト午前中だけやったんか)ひ、昼飯は」

『適当に食べて』

「早う言うてやそういう大事なことは・・・」

彼方帰ってくるまで待ってたんやでぇ、とつぶやきながら動き回る彼方の後をついて歩く白石

『ごめんごめん。だいたい、成人式出るって決まったの最近だし』

「そうなん?急やな」

『もともと行くつもりなかたんだけどな、弦一郎がうるさくて』

「ほぉん、で、もう行くんか」

『うん、これだけ持って行けばいいか・・・』

ようやく荷物がまとまったようだ

「せや!写メ送ってや!袴姿!」

『袴って決め付けるなよ、スーツだって』

「え、真田君のことやからてっきり袴やおもてたわ」

『どういう意味だよ。そういうお前もスーツなんだろ?』

「それこそ決めつけんなや、俺は袴やで!」

『そうなのか?じゃあ、写メ期待してるからな』

明日の成人式、白石は袴、彼方はスーツのようだ

「おん」

『じゃ、行ってきます。なんかあったら連絡して』

「わかった、気ィつけてなぁ」

そう言ってカバン片手に家をでる彼方に白石は手を振りながら見送った

「あ、いつ帰ってくんのか聞き忘れた」




そして数時間後



『遠い・・・』

ようやく神奈川についた彼方
新幹線から降りて、一人家へと歩く
今回は迎えはないようだ

『ったく、迎えに来いよ弦一郎のアホ』

荷物持ってもらおうと思ったのに、などと心の中でブツブツと文句を言う彼方だった

そしてさらに歩くこと数十分

『やっとついた』

時間はすでに15時を回っていた

『ただいま』

「あ!おかえりなさい彼方兄さん!」

出迎えてくれたのは妹の花音だった

『弦一郎は?』

「お部屋にいますよ?呼んできましょうか?」

『いや、いいよ花音』

「そうですか。寒かったですよね?今あったかいお茶いれますね!」

『ありがとう』

コート脱ぎ、居間へと向かう彼方

「あら、早かったのね彼方!おかえりなさい!」

『ただいま母さん』

そこには、出掛ける準備の整った母が座っていた

「成人おめでとう!」

『ありがと、どこか出かけるのか?』

「何言ってるの?写真撮りに行くのよ!」

『写真?』

今日の予定をなにも聞かされていない彼方にはなんのことかさっぱりわからない様子

「成人式の写真よ!残しておかなきゃでしょ?」

『ああ・・・別にいいのに』

「ダメよ!儀式みたいなものなんだから!」

『(儀式って・・・)そうですか』

有無を言わさない母に、おとなしく従うことにした彼方

「それじゃ!弦一郎呼んで来てくれないかしら?」

『あいつも行くのか?まだ撮ってないの?』

「一緒に撮らなきゃでしょ?」

『一緒って・・・まさか』

「ツーショット!」

ニコニコと笑を浮かべながら嬉しそうに言う母

『・・・はぁ』

弦一郎とツーショットなど、死ぬほど嫌な彼方だったが、そんな母の期待を裏切ることは出来なかった

そしてその重い足取りのまま弦一郎の部屋へと向かった


『弦一郎』

「おお、彼方!帰ってきてたのか!」

『お前が来いって言ったんだろ』

座布団に座って本を読んでいた弦一郎は、彼方の姿を見て本を閉じた

「早速行くか?」

『ああ、母さんがもう行くって』

「そうか、ならば準備せねばな」

『着ていくのか?』

「俺はいいが、お前はサイズがちゃんと合うかどうか試してみないとな」

『そうだったな』

二人で居間に戻り、その後彼方は明日着ていくであろうスーツを試着した

「あら!ピッタリね!」

「そうだな!俺よりワンサイズ小さくて正解だったな」

『・・・・その言い方、ムカつくな、俺は小さいんじゃなくて痩せてんの。弦一郎みたいに太ってねえか
ら』

「なに!?俺も太ってなどおらんわ!」

『はっ!どうかな!』

至近距離でにらみ合う2人

「彼方兄さんすごく似合ってますよ!かっこいいです!」

そんな2人のことはお構いなしに感想をいう花音

『そうか?』

「はい!」

「サイズあってよかったわ!さて!それじゃあ出かけましょうか!」

『このまま?』

「そうよ!弦一郎も早く着ちゃいなさい!」

「はい」

そうして弦一郎もスーツに着替え、彼方、母と共に車に乗り込んだ

『弦一郎の運転初めてだ。怖いな』

「大丈夫だ、安心して乗ってろ」

『そういう自信満々な奴に限って事故るんだよな』

「大丈夫だと言ってるだろ!」

また口喧嘩が始まってしまったようだが、なんとか目的地にたどり着いた

「ほらな、安全だっただろう」

『安全なのが当たり前だけどな』


後部座席からおり、ネクタイを締めなおす彼方

「ふふ。こうしてると私、ホストの若い子連れてるように見えないかしら」

「母さん・・・」

『見えない見えない。弦一郎老けてるし』

「なんだと!?」

『スーツ着てるとお前、30年勤めてるサラリーマンみたいだな』

「お前は借金取りみたいだな」

『取り立ててやろうか』

「ほお、やってみろ」

再び二人の間に火花が散る

「ほら二人とも、喧嘩しないで。お母さん受付してくるから」

二人を外に残し母は写真館の中へと入っていった

『ほんとに20か?』

「お前こそ、まだ未成年なんじゃないのか?」

『老けてるよりはいいだろ』

「くっ」

言い返せなくなった弦一郎


するとそこへ

「あのー。すいません」

「『はい?』」

スーツ姿の男が声をかけてきた


「俺、このへんでホストクラブ経営してるものなんだけど、ホストとか、興味無いかな?」

「『・・・』」

先ほどの母の「ホストの若い子・・・」という言葉を思い出し少し固まる2人

「あ!もしかしてもう他のところで働いちゃってるとか!だったらうちに来てよ!そこの店より待遇よくするからさ!」

「いやあの・・・」

引く様子のない男に、弦一郎が声を発した

「あ。君じゃなくて、そっちの君なんだけど・・・」

「!?」

弦一郎ではなく、その後ろの彼方を指さす男

『!・・・くくっ』

二人に言っているのだと思っていた弦一郎は顔を真っ赤にして、ワナワナと震える

そしてそんな弦一郎を見て必死に笑いをこらえる彼方

「だ、だれがホストなんぞやりたいといった!迷惑だ!立ち去れい!!」

精一杯強がり怒鳴る弦一郎

『あー、俺も興味ないんで』

「チッ」

その言葉を聞くなり、男は舌打ちをして去っていった

「なんだあの態度は!全く、たるんどる!」

『悪いね、俺だけ誘われちゃって』

「!?だから、ホストになど!」

『はいはい』

「笑うな!!キエーーーー!!!」

初めはクスクスとこらえながら笑っていた彼方だったが、今は大爆笑だ


「あら、何かあったのかしら?」

「何もないです!!!!」

「?今空いてるからすぐに撮れるそうよ!行きましょう」

「はい」

『はーい』

「笑いこらえろ貴様」

『悪い悪い』






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