世界で一番恋してる

□8日
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そうして、撮影所






「お母さん外でまってるからね」

「まずは一人づつ撮りましょうか」

若い男のカメラマンの指示通り、まずは弦一郎がセット内にはいる

いろんな角度やポーズで何枚も写真を撮っていく

「もっと楽しいこと考えて、笑ってみようかー」

「むっ」

『笑えって弦一郎』

「精一杯笑っている」

『だめだこりゃ』

「ははっ、じゃあもうちょっと口角上げてみようか!」

なかなか笑顔の作れない弦一郎
数枚がんばって撮った結果、引きつった笑顔しか撮れなかった

「うん、君はクールな感じでいこうか」

カメラマンも途中で諦めたようだ

「じゃ、交代!」

次は彼方の番だ

弦一郎と交代しセットの中に入る

「あー、君は別の部屋で写真選んで来てくれるかな?そのほうが効率いいしね」

「分かりました」

弦一郎は他のスタッフに別室へと連れて行かれた





「じゃ、はじめようか!」

『お願いします』

「君、綺麗な顔してるねえ」

『はぁ。ありがとうございます』

レンズ越しに彼方を見るカメラマン

「じゃあまずは普通にとるねえー」

そういって何枚かポーズを変え撮っていく

「いいねぇ、なんだかモデルさん撮ってるみたいだよ」

『どうも』

「このままモデルやんない?」

『いや、いいです』

「そっか、残念。よしじゃあ次、笑顔作ってみよう
か!」

『はい』

「口角上げてー、楽しいこと考えてみて!」

言われる通り、口角を上げ、笑顔をつくる彼方

「!!い、いいね!すごくいい!可愛いよ君!」

『は、はぁ・・・(可愛いって・・・)』

「あ!じゃあ、今度は挑発するみたいに笑って!」

『(挑発?こうか?)・・・』

「(ゾクッ!)最高・・・め、メガネとかかけてみよ
うか」

『メガネ?』

「いいねえ!!」

彼方の返事も聞かず、伊達メガネをかけさせるカメラマン

『・・・(なんかおかしくないかこれ)』

「腕と足、組んでみようか」

『・・・』

「で、カメラ睨んでみて」

『・・・』

言われるがままにカメラを睨む彼方

「おお・・・いいねえ、しびれるよ」

『(なんだこの人)』

「じゃあ、次は・・・」

そう言って固定してあったカメラを手に持ち、彼方のそばまで近づくカメラマン

「メガネはとって・・・ネクタイ緩めて、ボタンも二つくらい開けちゃおうか」

『はあ?』

「いいからいいから」

『ちょっと』

問答無用で彼方のネクタイを緩めボタンをはずし、胸元を開ける

「上むいて」

『!?なにすっ!』

「じっとして」

彼方の顎を持ち上げ上からのアングルでシャッターをきるカメラマン

『あんたもう、いい加減にっ』

「動くなって」

『!?』

「いいねその顔」

押し返そうとした片手を掴まれ、耳元でそう低い声で囁かれ不覚にも顔を赤くする彼方

そんな彼方の表情のすかさずカメラに収める

「やば、なんかエロ雑誌のグラビア撮ってるみたい」

『ふざけんなっ』

「もうちょっと脱いでみようか」

完全に仕事を忘れて彼方をカメラに収めていく男

『(こいつ、とんだ変態野郎じゃねえか!)弦一郎!』

「!?」

「どうした彼方」

「いやあ、なにもないよー、はは」

身の危険を感じた彼方は大きな声で弦一郎を呼んだ

その途端、まずいと思ったのか男はすごい勢いで彼方から離れた

そして何も無かったかのようにカメラを固定し直した

『もう十分とれましたよね』

「そ、そうだねー」

『じゃ、写真選んできます。後半の写真、ちゃんと消せよ』

「!は、はーい」

すれ違いざまに小声でカメラマンに忠告する彼方
警察に被害届出すぞ。という一言を添えて

「(なんでこいつネクタイ外してるんだ?)」

ネクタイを結び直しながら前を歩く彼方に何も知らない弦一郎は首をかしげた

「彼方、写真は私が素敵なの選んでおくから、弦一郎とツーショット撮ってらっしゃい!」

『・・・はぁ』

写真を選ぼうと別室に来た彼方だったが、母にそう言われ再び撮影場所に戻った

「む?もう選んだのか?」

『いや、母さんが選んどくから二人で撮ってこいって』

「そういうことか、お願いしていいですか」

「え!あ、あぁ!!もちろん!」

弦一郎がカメラマンに声をかける

カメラを弄っていた男は二人を見て、一瞬ビクッとした

それもそのはず

弦一郎の後ろで彼方が睨みを効かせていたからである

「じゃ、じゃあ、ササッと撮っちゃおうかー」

そういって二人をセットへ誘導する

「わ、笑ってー・・・いや、やっぱり真剣な表情のほうがいいかな、うん、そのままでいいよ」

「彼方、笑ったほうがいいんじゃないか」

『いいよ、別に』

「そうか」

「笑わなくていいから、に、睨まないでねー」

『別に睨んでない。弦一郎とのツーショットなのにニコニコできるか』

「どう言う意味だ彼方」

『そのまんまの意味だ馬鹿』

「くっ」

カシャッと撮られた一枚には、不機嫌そうな彼方と笑顔の引きつった弦一郎が写っていた




無事全ての撮影が終わったころ、母も二人のベストショットを数枚選び終わっていた

「んもう、なんで二人とも笑ってないの??せっかくの記念写真なのに」

「『これが精一杯でした』」

母的には二人のツーショット写真はお気に召さなかったようだ

「サービスだから一枚しかとってもらえないんだし、もっと頑張って欲しかったわ」

「『(これ以上頑張ったら胃に穴があく・・・)』」



そんなこんなで写真館を後にした
写真は数日後に家に届くらしい


「なにか食べて帰りましょうか!」

「夕飯食べれなくなりますよ」

「大丈夫!久しぶりに二人とお出かけしてるんだし、お茶でもしていきましょ!」

『いいんじゃねえの?たまには』

「確かに、3人で出かけるのはいついらいか・・・喫
茶店でいいですか?」

弦一郎の運転で喫茶店によるようだ

「ええ、いいわ!ふふ、小学生ぶりね!」

『そんなに前か?』

「そうよ!二人とも中学入った途端にやれ部活だ勉強だって!仲も悪くなっちゃって、お母さん寂しかったのよ!」

後部座席から身を乗り出しペシペシと彼方の頭を叩く母

『わかったから!ちゃんと座ってろって危ないな!』

「はいはーい!(二人とも見た目はすっかり大人っぽくなっちゃって、中身はまだまだ子どもなのにね)」

こうして3人は喫茶店でコーヒーとおやつを食べて家へと帰った


















「明日朝早いからもうねなさいね!」
「そうですね」
『俺は?どこで寝れば?』
「弦一郎の部屋でいいでしょ?」
『・・・(またか)』
「嫌なら外で寝ろ」
『お前が外で寝ろ』
「なんでだ!」
「喧嘩しないの!!布団ひとつしか敷いてあげないわよ!」
「『・・・すいません』」


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