世界で一番恋してる

□11日
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1月11日





「彼方さん今日ずっと顔色悪いっすね」
『そうか?』
「はい、大丈夫すか?」
『ああ、なんとか』

時刻はもう朝方、5時を回ったところだ
今日のシフトは最近入った1つ下のアキラ君と2人だ

「あ、そろそろ二回目の休憩まわします?」
『あー、そうだな、そうするか』
「じゃ、先ええですよ!」
『サンキュ、何かあったら呼べよ』
「はーい」

いってらしゃーい、と手を振るアキラ
相変わらずのんきな奴だ

アキラの気の抜ける声をバックに、俺は事務所へと入っていった

『頭いた・・・蔵にもらった薬、切れてきたか』

出掛ける時に蔵ノ介に手渡され飲んだ薬が切れたらしい

『予備もらっとけばよかったな』

事務所のソファに座りうなだれ目を閉じる

だが、あっという間に30分の休憩は終わってしまった

『もう30分か・・・』

重い腰を上げ店内に戻る

「あ、大丈夫すか?」
『ああ。さっきよりは』
「よかった!ほな、俺休憩入りますね!」
『ああ』
「しんどかったら遠慮なく言うてくださいね!俺代わりますんで!」
『わかった』

そう言って次はアキラが事務所へと入っていった

『気合入れてかないとな』

そう意気込んで深呼吸した時
店の自動ドアが開き客が入ってきた

『いらっしゃいま・・・せ・・』

俺の目に飛び込んできたのは
帽子を深くかぶり、口元を隠すマスク
目元にはサングラス
コートを首元までしっかりと着込み
さらにマフラーで顔の輪郭までも隠した、長身の多分男

『・・・(あ、怪しい)』

誰がどうみても怪しい

こんな時間にこんな格好・・・
万引きか強盗か、はたまたコートの下は全裸の変態か

『(注意して見てないとな)』

男は店内をぐるぐると周り、何かを探している様子

『(アキラ呼んできたほうがいいかな・・・)』

男の行動に少し恐怖を感じ、アキラを呼ぶため事務所へ向かおうとした俺

「あの」

声をかけられた

『は、はい』
「女性用のストッキングと絆創膏って、どこにありますか?」
『は?ストッキング・・・ですか』

声からして確実に男だ
ストッキングなんて、一体何に使うんだ・・・

眉をひそめ男をもう一度上から下まで見てみた

いや、性癖は人それぞれだしな・・・

『こっちです』
「すいません」

礼儀はいいようだし、もしかしたらほんとに普通の人かもしれない

『これでいいですか?』
「あ!はい、よかった」

そしてストッキングを2、3枚と絆創膏を持ってレジへ

向かおうとした時、俺の頭に激痛が走った

『痛っ・・・』

痛みに耐えられず、その場にしゃがみこんだ俺

「!?大丈夫ですか!」

男が俺の肩を包み込んだ

『あ、大丈夫です、すいません・・・』
「よかった・・・あ」
『??』

男の帽子がとれていた

サラサラの青みがかった黒い髪
いい香りもする

「はあ、もういいか・・・」

そう呟いた男は、サングラスとマスクも外した

「驚かないでくださいね、それと出来れば誰にも言わないでいただけるとありがたいのですが・・・」
『・・・・?』

隠すもののなくなった男の顔は、眩しいくらいイケメンだった
居るんだな、こんなイケメン
しかし、この男は何を言っているんだ?
イケメンだからって、そこまで驚かない
とんだナルシスト野郎なのか?
誰になにを言うんだよ

「あれ?もしかして、私のこと知らないですか?」
『??有名人、なんですか?』

ピンと来ていない俺に、男は驚いた様子

言われてみれば、確かにどこかで見たことあるような気もする

が、誰だかまったくわからない

『すいません、テレビとか、あんまり見ないんで・・・』
「そうですか・・・では、もう隠す必要なさそうですね」
『はあ、』
「体は大丈夫ですか?これ、良かったら」
『え』

そういって手渡されたのは栄養ドリンクだった

「こんな時間までお仕事お疲れさまです、それ、疲労によく効きますよ」
『どうも・・・あ、レジ、どうぞ』
「あ、そうでしたね」

このまま帰るところでした、と笑っていう男
笑顔までイケメンだな

『ありがとうございました』
「明日もこの時間にいますか?」
『はあ、いますけど』
「・・・」
『??』

カウンター越しにじっと見つめられる

『なにか?』
「!?あ、いえ!なんでもないです、すみません」
『??』

俺が声をかけると慌てて目をそらし、顔を赤らめた

「では」
『あ、ありがとうございました、またお越しください』
「はい」

ニコッと微笑み男は店を出て行った

『結局、誰だったんだ??』

名前とか、聞いとけばよかったな

「休憩あがりまーす!」

そう思っていたところにアキラが休憩を終え店に戻ってきた

『なあアキラ』
「はい?」
『お前芸能人とか詳しい?』
「は?まあそれなりに有名な人なら」
『このへんで今日か明日か、撮影とかライブとかあんのか??』
「へ?んー確か京セラで何かアイドルがツアーやってたと思うねんけど・・・」

顎に手をあて、古典的な悩んでますポーズをするアキラ

『誰かわかんねえか?』
「そこまではちょっと覚えてないっすね・・・」
『そっか・・・(帰ったら調べてみるか)』
「なんでそんな事聞きはるんすか?」
『いや、ちょっと』
「??」

誰にも言うなって言われたし、一応黙っとくか























『ただいま』
「おお、おかえり、身体大丈夫やったか?」
『ああ、もう大丈夫。今から学校か?』
「そらよかった!おん、行ってくるわ」
『行ってらっしゃい』
「今から寝るんか?」
『ああ、おやすみ』
「おやすみ」
「『(なんだこれ)』」



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