世界で一番恋してる

□12日
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「ただいまー」
『おお、おかえり』
「なんや、今からバイトか?」
『ああ、行ってくる。飯適当に食えよ』
「了解、いってらっしゃい」
『行ってきます』

夜10時。
学校から帰ってきた蔵ノ介と入れ違いで家を出た





1月12日





「こんばんは」
『あ、いらっしゃいませ』

時刻は深夜2時過ぎ
アキラが休憩に入って少し経ったころ、昨日の例の客がやってきた

『今日は変装してないんですね』
「この時間なら人も少ないと思いまして、体は大丈夫ですか?」
『あ、はい、ただの二日酔いだったみたいで』
「はは、そうだったんですか」

レジ越しに男と会話をする

「昨日はありがとうございました、助かりました」
『ああ、ストッキング・・・履いたんですか?』
「へ?私が?ち、ちがいますよ!私の大切な方がリハーサル中に怪我をしてしまいまして・・・」
『あの時間にリハーサル・・・』
「少しトラブルがありまして・・・」
『そうだったんですか』

昨日のことに対し丁寧にお礼を言う男
律儀だな

『今日も、何かお探しで?』
「あ、いえ、お礼を言おうと思いまして」
『そんな、わざわざいいのに』

芸能人ってどこか変わってるな

「そうだ、私のこと、誰だかわかりましたか??」
『あ・・・えっと』

しまった、調べるの忘れてた

「いえ、いいんです。私もまだまだ駆け出し・・・もっと有名にならなければいけませんね」
『(なんだ、そんなに有名な人じゃないのか)すみません』
「あの!」
『は、はい?』
「よかったら今度っ」

何か考え込んでいた男だったが急に顔を上げ俺の両手を握ってきた
な、なんだ

「休憩あがりまーす」
『あ、おう』

男が何か言いかけた時、事務所から休憩を終えたアキラが出てきた

「あっ」
『??』

アキラの顔を見て咄嗟に俺の手を離し、自分の顔を隠す男

「あれ??・・・」

男の顔をまじまじと覗き込むアキラ

『おいアキラ、失礼だろ』

ジロジロと男を見るアキラと、そんなアキラの視線から逃げる男

「あの、今日はこれで失礼しますね」
『あ、ああ。なんかすみません』
「その声・・・わかった!!!ST☆RISHのトキヤだ!!」
「!?」

男を指差し興奮気味に名前を呼ぶアキラ

『スタっ・・・?トキ、ヤ?』
「・・・」
『アキラ、知ってんのか?』
「知ってるもなにも!!国民的アイドルやないですか!!年末の紅白にも出てたし!!」
『年末はガキ使見てたから・・・』
「そうやなくても!!めっちゃ有名ですよ!!ちゅーか彼方さん!今握手してましたよね!どういう関係なんすか!!知り合いなんすか!?」
『い、いや・・・』

かなり興奮してんなコイツ
そんなに有名なのか

「すみません、あまり騒がないでいただけますか・・・」
「あっ、すみません・・・」
『かなり有名な方だったんですね』
「いえ、知らない方いるんですから、まだまだですよ」

眉を下げながら言うトキヤという男
本心では少しがっかりしているようだ

「せや、確かST☆RISH、全国ツアー中っすよね!今大阪なんすか!」
「は、まあ・・・」
「京セラっすか!?」
「そう、ですね・・・」
「サインもろてもええですか!!」
「えっ・・・」

騒ぐなって言われたそばからこいつは
一気にまくし立て、サインまでねだるアキラ
困ってるじゃないかこの馬鹿

『アキラ、いい加減にしろ。困ってるだろうが』
「アイテっ!彼方さんはこの人の事知らないからそんな冷静でいられるんすよ!!」
『この人だって今はプライベートだろ、ほら、トイレ掃除行って来い』
「えええ!!そんな!?酷いっすよ彼方さん!!ほなせめて、握手だけでもっ!!」
『いい加減にしろっ!!』
「あ、握手くらいなら構いませんよ・・・」
「ほんまですか!!うわー!嬉しい!!」
『なんかすみません』
「いえ、ファンがいてくださるのは私も嬉しいですから」

ニッコリと微笑むトキヤという男
ほんと、綺麗な顔だな
満足したのかアキラも大人しくトイレへと向かった

「あの、彼方さん、とおっしゃるのですか?」
『あ、名前ですか?そうですけど』
「名前でお呼びしても構いませんか?」
『??はあ、』
「よかった。私のことはトキヤ、で構いません」
『・・・いいんですか?そんな馴れ馴れしく』
「ええ、あなたには名前で呼んで欲しいんです」

そういってまた俺の手を握るトキヤ
変わった人だな

その後、時間も時間なため、客もこず
俺はトキヤの話を聞き続けた

どうやら今、デビュー5周年ツアーの最中らしい
大阪は今週の土日にあるそうだ
まあ、行かないけど

出演しているテレビ番組や
口ずさんでくれる曲を聴いていると、どれも聞き覚えのある曲ばかりだった

『あ、その曲も知ってる!CMで流れてるやつだろ』
「はい!」

初めは真面目そうな、硬い人なのかと思っていたが
とても話しやすい気さくな人だった

「彼方さん!トイレ掃除終わりました!!あ!まだいた!よかった!!」
「あ・・・はは」

トイレからアキラが戻ってきた
アキラの顔を見たとたん、さっきまでの笑顔がトキヤから消えた
苦手なんだな・・・

「トイレ掃除で手洗ってもうたんで、もういっかい握手してください!!」
「えっ!」
『ふざけんな、ダメに決まってんだろ』
「えー!!」
『じゃあ俺、休憩入るから。頼むな』
「チェッ、はーい」

やる気のないアキラの返事

「今から休憩なのですか??良ければもう少しお話したいのですが・・・」
『ん、あーじゃあ、外でますね、待っててください』
「はい!」

キラキラと眩しい笑顔を向けられた
何が楽しくて俺なんかと話したいんだか
とりあえず一度事務所に戻り、コートを羽織って再び店内に戻った

「てことは他のメンバーも今みんな大阪にいてるんですか!」
「そうですね」
「うわー!俺もツアー見に行きたいっす!」
「チケット取って是非来てください」

またアキラに絡まれてる

『仕事しろ仕事』
「イテッ。やって客居らんやないですかー」
『はあ。トキヤさん、外出ましょうか』
「はい!」
「ええー!そんなあ!」

ずるい!というアキラの声を無視し、俺とトキヤは店を出た

『どうぞ』
「あ、すみません」

さっき店で買った缶コーヒーを手渡す

『いいんですか、アイドルがこんなところで缶コーヒー飲みながら雑談なんて』
「初めての経験ですね」
『でしょうね』
「ですが、とても新鮮です」
『そうですか・・・』

店内にいる時とはまた違う雰囲気だ
さっきまではトキヤが色々と話していてくれたから会話に困ることはなかったが
今は何も話してくれない

『(何話せばいいんだ?)あー。寒いですね』
「そうですね、では手を繋ぎましょうか」
『は?』
「嫌ですか?」
『・・・嫌ですね』
「!?」

驚いた顔をしているようだが
驚いたのはこっちだ
急に何を言い出すんだ

「照れているのですか?可愛いですね」
『どうかしたんですか?』
「え?」
『いやだって、急にそんな・・・』
「初めてお会いした時から思っていましたよ、可愛らしい方だって」
『男ですけど』
「関係ないです」
『・・・(変わってるな)』

綺麗な瞳でジット見つめられる

『俺の顔に何かついてますか』
「いえ、すみません・・・出来るだけ長くあなたのことを見ていたくて」
『・・・』
「今日は星が綺麗ですね」
『そうですね』
「明日もお仕事ですか?」
『?明日は休みですけど・・・』
「そうですか!ではあの、明日私の為に時間を作っていただけませんか」
『と、いうと?』
「行きたいところがあるんです」
『・・・一緒に行こうってこと?』
「はい!」

いいのか、有名人が一般人と出かけるとか・・・
女じゃないからいいのか

『別に。いいですけど』
「!ほんとうですか!?」
『はあ』
「ありがとうございます!では明日、13時にここに来ます」
『13時ですか、分かりました』
「多分変装していて見つけられないと思うので、私が声をかけますね」
『はあ』
「では、今日はこのへんで失礼します」
『暗いですから気をつけて』
「ありがとうございます」
『!?』
「ふふ、やはり可愛らしいですね。では」

綺麗に微笑み、国民的アイドル、ST☆RISHのトキヤは去っていった
俺の右手の甲にキスを落として

『・・・やっぱり芸能人って変わってるな・・・』

寒い
彼も帰っていったことだし、もう戻ろう

店内にひとりで戻った俺に、アキラが絶望したのは言うまでもない
























「ほかのメンバーにも会えないっすかねえー」
『夢見てんじゃねえよ。さっさと商品並べろ』
「彼方さんばっかり気に入られてずるいっすよー!」
『別に気に入られてないだろ』
「いや!絶対気に入られてますって!!やなかったらキスなんてしませんよ!」
『み、見てたのか!?』
「見えました。あ!もしかして、照れてはるんすかー!彼方さん顔赤いっすよ!」
『くだらねえ事言ってんじゃねえよ』
「うわー!彼方さんのテレ顔とかまじレア!!」
『黙れ、口塞がれたいか』
「彼方さんの唇で?」
『ガムテープでだ』
「アイテっ!!冗談やないですかー!(でも今日の彼方さん、ちょっとツボかも)」


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