世界で一番恋してる

□13日
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1月13日




「そないにおしゃれして、どこ行くん??」
『変か?』
「いや、似合うてるけど・・・デートちゃうよな」
『ちげーよ』
「ほなええわ」
『(急に興味なさそうだな)』
「ほんで、どこ行くねん?帰り遅いん?飯は?」
『どこ行くかはしらね。帰りもわからん。飯もわからん』
「なんやそれ!?」
『なんにも聞いてないんだからしょうがないだろ』
「何も聞いてへんて・・・いったい誰と出かけんねん?」
『・・・それはちょっと、言えないけど・・・』
「なんでなん」
『とにかく、あんまり詮索するな。行ってきます』
「ちょっ!」

蔵ノ介の怪訝そうな視線を振り切って部屋を出た
誰に会うかは言わないほうがいいよな
トキヤも黙っててくれって言ってたし
・・・あいつ、ついてきたりしないよな
そんなに暇じゃないか

約束の時間まであと10分
俺は昨日言われたところまで足早に向かった





言われた通りの場所で待っていると、近くに車が停まり

「すみません。待たせてしまいましたか?」
『いや、平気』
「それはよかったです、どうぞ乗ってください」

帽子にメガネ姿のトキヤが車から降りてきた
あまり変装はしていないように見えるが、大丈夫なのか?
どうぞ、と言われ、助手席のドアが開けられる

『女じゃないんだし、ここまでしてくれなくても・・・』

慣れていないせいか、かなり照れる・・・

「いえ、今日1日あなたのことをエスコートするつもりですから。私の彼女になったつもりで、楽しんでくださいね」

ニッコリとほほえみながらそう言われた
彼女って・・・

『・・・(ファンにとってはたまらないんだろうな)わかった』

途中でファンの子達の遭遇しなきゃいいけど・・・
見つかったらどうなるか、考えただけでも恐ろしい
女子の嫉妬は怖いからな

車に乗り込むと、そっとトキヤがドアを閉めた
その後トキヤも運転席に乗り込みエンジンをかけた

「本当はもっとちゃんとしたスポーツカーかなにかで来たかったのですが。あまり目立つと厄介なので、こんな小さな車ですみません」
『いや、見つかったら大変だからな』
「ふふ、秘密の関係みたいで少しドキドキしますね」
『・・・はあ』

俺が女なら、秘密の関係でドキドキするかもしれないが
俺は男だし。
それに有名人とか芸能人とかにあまり興味がないから、そこまでドキドキはしない
男友達と遊びにいく感覚だ

「それでは行きましょうか」

トキヤのその一言で車は目的地へ向けて動き出した

「お腹は空いていませんか?」
『朝は食べてきたから大丈夫』
「そうですか」
『そういえばツアー中?なんだよな?練習とか大丈夫なのか?』
「ええ、今日は1日フリーなんです、せっかく大阪に来たのにホテルに缶詰なんて勿体無いですしね」
『・・・メンバーとかとは一緒に出かけないのか?』
「そうですね、メンバーともしたいですが、私はあなたと一緒にしたかったから」
『(この前初めてあったばっかりなのに)・・・』

そんなこんなで会話をしつつ、車はナビの通り進んだ






走ること30分






『来たかったところって、ここ?』
「はい。大阪に来たら行こうと思っていまして」

到着した場所は

『海遊館か、俺も初めてだ』
「そうですか!それはよかった、チケット買ってきますから待っていてください」
『俺も行くよ』
「言ったでしょう、今日は私があなたをエスコートするって。ここにいてください」
『・・・はい』

着いたのは大阪で有名な水族館だった
チケット代を払おうと思ったのだが、受け取ってもらえなかった






「なるほど、順路は決まっているんですね」
『そうみたいだな。それより、大丈夫なのか?そんな簡単な変装で』
「大丈夫です。案外見つからないものですよ」
『それならいいけど・・・』
「心配してくださってありがとうございます。安心してください、迷惑はかけませんから」
『それは別に・・・』
「さ!では行きましょか」



パンフレットを片手に順路通り進む



「綺麗ですね。まるで海の中を歩いているようです」
『ホントだな』

なんて会話をしながらアクアゲートをくぐる
初めて見たけど、本当に綺麗だ
トキヤの言う、海の中を歩いているというのも、しっくりくる

水族館は割と好きな方なので結構楽しい
俺もいつかここにきたいと思っていたし

平日だからか客もそんなに多くなく、ゆっくりと見て回れる

「そろそろ次に行きますか」
『・・・ん、ああ・・・』
「・・・・」
『次いきますか』

トキヤにそう言われ、ハッと我にかえる
次に向かおうと足を進めた俺の腕をトキヤが掴んで引き止めた

『?どうかし・・・』
「もう少し見ていきましょうか」
『・・・っ』

ニコリと微笑み言うトキヤ
バ、バレてる・・・

今いるのはアリューシャン列島というゾーンの水槽の前

目の前には顔をゴシゴシと洗うラッコ
そう、俺はラッコが死ぬほど好きだ

無意識に見入っていたようで、トキヤの声が耳に入っていなかった
この年になってもラッコなんかに夢中になっているところを見られるのは大変恥ずかしい

「ラッコ、お好きなんですね」
『・・・は、はい』
「恥ずかしがることはありませんよ、誰にでも好きなものはありますからね」
『・・・可愛いもんな』
「ええ・・・本当に、可愛らしい」

トキヤには付き合わせて悪いと思ったが、彼も楽しそうだったし、ここはお言葉に甘えてもう少しラッコを眺めることにしよう
トキヤの視線の先はラッコではないことに、俺は気づくはずもなく、時間は過ぎていった

「もういいのですか?」
『流石にもう・・・餌やりも見れたし、満足です』
「そうですか、では次に行きましょうか」

こうして他も一通りまわり、気づくと時間はお昼をとっくに過ぎていた

「ジンベイザメ、すごかったですね」
『ああ、すごい迫力だったな』
「ええ、ペンギンも可愛かったです」
『ペンギン好きなのか?』
「そうですね、割と好きなほうです」
『もっと見たかったんじゃないのか?』
「いえ、あれだけ見られれば十分ですよ」
『そっか』

確かにペンギンの水槽は、心なしか滞在時間長かった気がするな

「お腹すきませんか?」
『そういえば・・・もうこんな時間か』
「なにか食べましょうか」
『そうするか』

そうして俺たちはレストランへと向かった
16時という微妙な時間だったため、軽いジャンクフードで済ますことにしたい

『アイドルがこんなん食べてていいのか』
「アイドルだってハンバーガーくらい食べますよ」

こうしていると本当にテレビに出ているアイドルなのか、と疑いたくなってしまう
いや、だって。ものすごくフレンドリーだし、居心地イイというかなんというか
全然緊張しない

食事をし終わったあとは、水族館内にあるお土産コーナーで、一応蔵ノ介に土産を買った
トキヤも何か買っていたようだ
メンバーへの土産だろうか
買い物も終わり、外へ出てゆっくりと歩く
そろそろあたりも暗くなり始めていた

「あの、観覧車、乗りませんか」
『あぁ、別にいいけど・・・』
「よかった!」

流石に観覧車は断られると思ったのか、言い出しにくそうに言うトキヤ
そういえばこの観覧車も結構有名なんだよな

チケットを2枚購入して観覧車に乗り込む

「観覧車なんて、いつ以来でしょうか」
『確かに、全然乗ってないな』

何年、いや、何十年ぶりだろうか?
まだ仲がよかった小さい頃に弦一郎と乗った記憶はあるけど

ゆっくりと上がっていくゴンドラから景色を眺める
そうか、すぐそこは海だったな

「綺麗ですね。海は心が落ち着きます」
『俺も海は好きだな』
「今日はどうでした?楽しめましたか?」
『ああ、楽しかったよ。連れてきてくれてありがとな』
「よかった。そう言っていただけるとありがたいです」

安心したように微笑むトキヤ

「そろそろてっぺんですね」
『ホントだな』

景色がすごくいい
結構高いんだな

「・・・あの・・・」

トキヤが俺に声をかけたところで、ポケットに振動を感じた

『あ、悪い電話だ』
「いえ、どうぞ出てください」

トキヤの了承を得て通話ボタンを押す


『もしもし。』
【おお、彼方、今ええか?】
『よくないけど、なんだよ』
【今日、晩飯どないしたええ?彼方の分も作っといたほうがええ??】
『ああー・・・』

チラッとトキヤに視線を向ける

明日ライブだって言ってたし、ここ降りたら解散かもな・・・

『頼んでいいか』
【おー、了解。ほな作っとくわ】
『悪いな』
【ええで。邪魔して悪かったな、ほな続き楽しんでや】
『ああ、じゃあな』

早めに電話を切り上げたつもりだが、外を見ると結構終わりに近づいてきていた

『ほんとごめん』
「いえ、構いませんよ」
『もう終わりか』
「そうですね、早いです・・・あの・・・」
『??』

観覧車に乗ろうと言い出した時以上に、言いだしにくそうなトキヤ
どうした?

「そちらに行ってもいいですか」
『??いいけど・・・?』

向かい側に座っていたトキヤが急に変なことを言い出した

俺の返事を聞いてすぐ、こちらに移動してきた
その時少しだけゴンドラが揺れた

「向い合わせで座るより、隣に座ったほうが仲良くなれるらしいですよ」
『はあ・・・?』

そういって、俺の右手にそっと両手を重ねる

「こんなこと、言っても信じてもらえないかもしれませんが、私・・・」
『えっ・・・』

帽子とメガネを外し、さらに近くに身を寄せるトキヤ

「初めてお会いした時から、あなたのことが・・・」
『・・・?』

まるで告白されるみたいだ、と思いながらも、相手はアイドル、ましてや男。
そんなことはあるわけがない
彼が何を言いたいのかさっぱりわからないが、なにかよくない予感がする

俺の手を握るトキヤの手に、ギュッと力がこもる
そして、意を決したように口を開いた時、下から女の人の興奮する声が聞こえた
二人してゴンドラから下を覗く

「まずいですね・・・」

あれって、ST☆RISHのトキヤじゃない!?、などというざわつく声が大きくなる

『もしかして、バレちゃった?』
「そのようですね」
『・・・・(この距離でなんでわかるんだろ)』

観覧車の中、しかもまだ地上まではまだ数十メートルもあるところから、よくこの男がトキヤだとわかったな
まるで千里眼だな、ファンってすごい

「すみません、迷惑はかけないと言ったのに・・・」
『見つかっちゃったものは仕方ないだろ』
「・・・・観覧車を降りたら思い切り走ってください」
『大変だな、アイドルって』
「すみません・・・」
『謝るなって』

自分のかぶっていた帽子を俺に深くかぶせ、俺の手をギュッと握るトキヤ

別に女性といるわけじゃないんだから、こそこそする必要もないとは思うが、どのみちめんどくさくなることは目に見えている

地上まであと数秒
騒ぎを聞きつけ駆けつけた警備員によって入口は確保されているが、それでも観覧車の周りには既にすごい数の人が集まっていた

改めて彼がすごい人なんだと認識させられた








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