present
□snow drop 出会い
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しまった!
こんな大事な日に寝坊なんてありえない!
いや、本当にありえない!
私達は壇ノ浦から必死の思いで逃げて来て、奥州に辿り着いた。
辿り着いたのが夜遅くだったので、奥州の領主に挨拶すら出来ず、そのまま案内された高館で泥のように眠ってしまった。
安心して眠るのは、いつ以来だろう。
布団に倒れこむように床についた。
その結果がこれ。
どうして、誰も起こしてくれないの!!
いや、気を使ってくれているのはわかるけど…。
そのまま、伽羅御所に直行しようとした私を朔が制して、お風呂に入ってくるように言った。
その間にご飯を作るからと。
そんな、のんびりしてていいの!?
とは思っても、皆朔の意見に賛成のようで、私は無理矢理お風呂に入れさせられた。
あぁ、もう!本当にごめんなさ〜い!
お風呂から上がると、朔に着替えを差し出された。
「え、いつもの服は?」
「お洗濯中よ。ほら、この服でもいいでしょう?望美に似合うわ。」
笑って、きれいな着物を差し出す朔。
「でも、この服動きにくいよ。」
私が不服そうに着物を受け取らずにいると、朔はまた笑って、
「いいのよ。ここには源氏の兵はいないんだから。」
「そうだけど…。」
そこまで言って、口ごもる。
朔の表情が柔らかくなっているのがわかったから。
ずっと気を張っていただろうから、ここに来て、安心したのかな。
そう思うと、私の不満はどこかに行く。
途端に肌寒いことを思い出した。
いけない、いけない!湯冷めしちゃう!
それに…。
うん、そうだよね。
ここには源氏の兵はいないし、たまにはこういう格好もいいよね。
「わかった、着るよ。」
朔の笑顔に、私も笑顔になる。
朔の気遣いと、一時かもしれない平穏に心が和む。
「さぁ、譲殿がご飯を作ってくれたから、行きましょう。」
「うん!」
一時だとしても、きっと必要なものだと思ったから、私は笑顔で頷いた。