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 「何か不満はあるか?」

 将臣は重い声で言う。

 「あるわけないだろう?兄上。」

 知盛の言葉に、将臣は浅く息を吐いた。

 「この状況、わかっているのか?」

 「わかっているさ。一門の危機、そうだろう?」

 知盛は目の前で、苦悶の表情をする、亡き兄によく似た青年を見る。

 「もう一度言う。不満は?」

 しつこく問う将臣に、知盛はクッと笑い出し、

 「あると言って欲しいのか?」

 「知盛!」

 小さく叫んだ将臣は、はっとして顔を背ける。

 「俺には戦などどうでもいい。一門の存続もな。」

 目の前に広がる海原に目を落とし、知盛は静かに言った。
 穏やかな波の音が、耳に心地いい。

 「お前…。」

 掠れた声で呟いた将臣に、知盛は将臣に視線を戻す。

 「勘違いするな。今は、だ。」

 遥か彼方に源氏の船団が群れをなす。
 あの船の中に、待ち望んでいる者がいる。

 「生きた証、か。」

 船に視線を向けたまま、知盛は呟いた。
 以前、言った自分の言葉に、嗤う。

 「まさか、ここまで早いとはな。」

 「?」

 「さぁ、行け、還内府殿。」

 はぐらかすように言った知盛。
 その言葉に急かされるように、将臣は奇襲用の船に飛び乗る。

 「知盛!死ぬなよ!」

 言った将臣の言葉に、知盛はただ笑うだけだった。
 船が動き出し、将臣は少しだけ、知盛を振り返る。
 知盛は源氏の船団に目を向けていた。
 その瞳から、知盛が何を考えているかは、将臣には計ることが出来なかった。
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