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□log3
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 「先輩は相変わらずですね。」

 学校帰りに譲くんとばったり会って、一緒に帰ることにした。
 帰途につきながらの会話に、譲くんが不意に苦笑した。
 その笑みを見ながら私は思う。

 いつから譲くんは、私のことを『先輩』と呼ぶようになったんだろう?

 昔は…、望美ちゃんだったはずなのに…。

 少し心に隙間が出来たような、心に冷たい風が通り抜けるような、そんな感じ。

 距離を置かれたような、一線をひかれたような…。

 そんなことを考えていると、お互い家に着く。
 そして、その時、私は初めて気がついた。

 あぁ、私、寂しいんだ。

 「それじゃあ、先輩。」

 笑って言った譲くん。
 門扉を押して中に入る。

 「あっ!」

 私が声を上げると、譲くんは不思議そうな顔をしてこちらを振り返る。

 「どうしました?」

 「え?あ、え〜と…。」

 考えもなく、呼び止めてしまって、私は口ごもる。

 「あ、後で遊びに行くね。」

 「?はい。」

 やっとのことで思いついた言葉を、しどろもどろになりながら言うと、譲くんは笑って頷いた。

 わかってるんだ、本当に言いたかったのは、

 どうして、先輩って呼ぶの?

 私は、昔みたいに望美ちゃんって呼んでほしいな。

 言えずに飲み込んだ言葉は、一体いつ言えるんだろう。

 私と距離を置いた譲くんに、それを言って、私達の今のこの関係は壊れないだろうか?

 昔のようにすら戻れないのではないだろうか?

 いつも通り、けれど、どこかよそよそしい私達の関係を決定打にする気がする。

 それは、私の勘だったけれど。


 寂しいよ、譲くん。


 私は家に入って、玄関に座って靴を脱ぐ。
 溢れ出る寂しさに私は膝を抱えて、小さく呟いた。

 「寂しいよ、譲くん…。」

 本人に言っても笑って誤魔化されるだけ。
 困ったように悲しい笑みを浮かべながら…。



 完

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