Novel_

□†微睡†
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辺り一面を覆う白銀の雪に松田桃太は幼い子供がはしゃぐ様な歓声をあげた。


彼は休憩時間を利用し気晴らしにと外出を決め、仕事の為に住み込んでいる超高層ビルを後にした。

厳しい寒さが肌を刺すように感じられ、松田は衣服を着込んでいるにも関わらず身震いを起こし両手をコートのポケットに入れ街を歩いて行く。


「やけに寒いなと思ったら……」

平日の昼間にこの雪のせいか、普段多くの人が行き交うショッピング街も数人だけが身を縮こませ歩いているだけだった。

車の通りも少ない。

そんな中松田はふと等間隔に植えられた木々を見上げた。

生い茂っていた葉は全て枯れ落ち、丸裸になった枝に黄色いイルミネーションが飾られ夜には美しく輝き人々を楽しませていた。


「もうクリスマスか…。早いなぁ」


普段、根詰めて仕事に励む彼にとってはクリスマスなど無いのも同然な事だった。


きっとクリスマス当日も仕事場で資料と睨めっこをし、膨大な情報を処理する事になるだろう。


自分の近い未来を考えると深い溜め息がこぼれる。


松田は頭を垂れ歩いていたが、何気なく向けた視界の端によく見馴れた姿を見つけ足を止めた。

松田がいるビルの曲がり角の先、先程から彼が歩いていた大通りの裏通りにあるスウィーツショップの前にいる一人の男。


血色が悪そうな青白い肌を持ち黒い髪に雪を被らせベージュのコートに白いマフラーを纏っている痩身の男が、酷い猫背で親指を銜え何かを凝視していた。


男の視線の先に眼をやると、そこには巨大なクリスマスケーキの模型がありケーキの予約を宣伝する為にお店のショーウィンドウに飾られていた。


(あれ…? 竜崎も抜け出して来たのかな?)


松田はケーキの模型を見つめたまま一寸も動かない男に声をかけようとした。

すると店の入口からまた一つ見馴れた姿が現れた。


「遅いです月くん。凍えてしまいます」

「そういうなら竜崎も店に入ればいいだろう」

「駄目です。一度入ってしまうと二度と出られなくなります」


ケーキを購入したのか、この店のロゴが印刷された小さな白い箱を片手に一人の少年が店から出て来た。

猫背の男は店内から流れて来た甘い香りに身を震わせる。


「さて…これで備品も揃った事だし……そろそろ行こうか」

「はい…私負けませんから…」


渇いた笑いを放ち、少年は竜崎と呼んだ猫背の男の左腕を掴み何処かへ歩み始める。


(…月君まで……一体何処へ行くんだろう?)


偶然見つけた二人に対し訝し気に感じた松田は、二人の後を追う事にした。


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