Novel_

□†母親†
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「! いや…その…ぼ…僕の口からは…その」
言葉を濁らせる月に、竜崎は彼にとっての満面な笑顔で言った。
「はい。月くんはキャラに似合わないシャイな人ですからね。別に『竜崎、それじゃあ僕と【親子ごっこ】しようか』なんて言わなくてもいいんですよ?」
「わかってるさ…! その…そうじゃなくて」
月が一人しどろもどろしていると、そんな彼を愉しそうに眺めながら竜崎は問う。
「…私に『おいで』が言えないんですね?」
「…………」

いつからだろうか。
二人の間で密に行われるようになった戯れ事。
それが始まったのはいつからなのだろうか。
月が竜崎とこの捜査本部で本格的にキラ事件の捜査を開始した辺りからだと彼は覚えている。
キラ容疑をかけられ、潔白を示す為に監禁を自ら要請し、開放後24時間行動を共にすると言う竜崎と片手同士を長い鎖がついた手錠で繋がれた、あの頃。突然彼が語りかけて来たのだ。
「月くん。貴方の母親もとても優しいのでしょうね」

彼は大犯罪者であるキラを一生懸命見つけだそうと燃えている月を見ていて、生まれ落ちてから今の今まで大変大きな愛情に包まれ育って来たのだろうと感じ、そう呟いた。
竜崎はそんな月と行動を共にするたびに、ある衝動に駆られていた。
『月に触れてみたい。触れれば、月が与えられて来た溢れんばかりの愛情に自分も溺れられるのでは』と考えた。

少しでもいいから多くの愛情を。偽りでもない本当の優しさを。
竜崎は求めていた。
だからこうして、周りに誰もいなくなったこの時竜崎は月に要求する。
「私の゙親″になって下さい」と。

「………まあ、貴方に無理を言っての事ですから、仕方ないです。さて…失礼しますよ」
素足の竜崎が、汗で床を歩く足音を鳴らしながらソファに座る月に近付き、彼に抱き抱えられるように自身の体を預ける。
竜崎の体の重さを月は感じながら彼の柔らかな黒髪の、頬をくすぐる感覚に意識を向ける。
体の奥から吐き出す溜息。竜崎の口から零れる。
「……相変わらず温かいです」
「当たり前だ。僕は生きているんだ」
そうですね、と返す竜崎。
そんな彼はまるで屍のように体温が殆ど感じられない。
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