Novel_

□†微睡†
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「月くん…今回は貴方から持ち掛けた勝負なので、勝っても負けても準備に使用した資金は全て貴方に負担して貰います」


歩き始めて約十分程経った頃、竜崎は自分の横に歩く少年に言い放った。

少年も解り切った表情で頷く。


「…しかし……月くんも物好きですね…」

「それはお互い様だろ」


二人の間に何処かしら緊迫感が漂っているのを感じた松田は、彼等に気付かれないよう距離を取りながら尾行した。


(……物好き…? 全く目的が読めない…)


二人を追う松田の目に小規模な公園が一つ入った。

少し古びた遊具が数点設置されたこじんまりとした公園。

そこに彼等は何の躊躇いも無しに向かって行った。


「……公園なんて…粧裕が小学生の時に来たっきりだ…」

「…ちょうど誰もいない事ですし、勝負に身が入ります」



竜崎は公園の片隅へ行き、膝を抱え込んだ奇妙な座り方でじっと地面に積もった雪を見つめる。


ケーキが入った白い箱を持つ少年−−−夜神 月はしゃがみ込む竜崎の後ろ姿を眺めながら、公園に設置されたベンチの雪を払い白い箱を置いた。



「竜崎…もう一度確認しておくが、今回が初めてではないんだな…?」

「はい。余談ですが私は一度もワタリに勝った事がありません」



(………ハッキリと会話が聞こえないな…)


公園の入口の側、躑躅が植え込まれた花壇に身を隠すようにして青年二人の様子を伺う松田。


彼の眉間には深い皺が刻まれている。



「…竜崎……始めようか」


その場にしゃがみ込み雪を弄っていた竜崎の動きが止まった。

そして…。


高速で何かの塊が竜崎の頬を掠める。


瞬時にその場から飛びのいた彼の両手からも、少し大振りな塊が二つ月めがけ放たれた。



「…やりますね、月くん」


(…………これって……………………『雪合戦』……?)


目を瞬かせ花壇の影から二人の様子を伺っていた松田は眉間の皺を更に深く刻んだ。



「……竜崎…意外に出来るものなんだな」

「…油断は禁物ですよ、月くん」


竜崎は飛んで来る雪玉を避けながら月のいる場所へ向け駆け出した。


「…!? なんだ竜崎…」
「私の勝ちです」



あっという間に距離を詰めた竜崎の足は地を蹴りその身体を宙へ跳ね上がらせ、雪玉を構えていた月へ飛び込むように抱き着くと二人はそのままの勢いで地面へ派手に倒れていった。


「なっ…何を…!?」

激しく困惑する月の顔面に竜崎の手にする雪玉が強く叩きつけられた。


「貴方の負けです。ケーキは私が美味しく頂きます」



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