Novel_

□☆†郷愁†
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ほんの数ヶ月前の記憶に、僕の心は郷愁を纏っていた。




そういえば目前のこの光景を昔の僕は常に眺めて来たのだと思い出す。


椅子の上で膝を抱え、テーブルの上の高価なスイーツをフォークでいじくり回しながら、あいつは世界一の探偵として難事件に挑んでいた。


四六時中、あいつの手元には今僕が手にしているような純白な輝きを見せるカップがあった。



………懐かしい………僕は小さく呟く。



今となってはあの頃の出来事など、昔話でしかない。

……だが僕は………改めてもう一度…あいつの影を追いたいと思う…。

あいつの存在……あいつの体温…あいつの息遣い…あいつの生き様…あいつの心…。


その全てをもう一度………僕の手で掴んでみたい…。





だがそれも、もう過去の遺物……。


こうしてほんの一瞬微かに思い出すだけの物。



決して掴む事が出来ぬその現実を……僕は覗くカップの中揺蕩う珈琲に映し出していた。




ゆっくりと……ゆっくりと苦味に混ざる甘美な記憶を噛み締めながら………その全てを………………僕は飲み干した。









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