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□3.城下町
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振り返ったその先、ルークが広場の入口で仁王立ちしていた。
腰に携えた剣の柄に手を延ばし、怒りに燃えた目つきでこちらを睨み据えている。
「ウォレス!!今すぐに方々を解放しろ!!」
ルークは一喝するとこちらにつかつかと捷歩(しょうほ)してきた。
彼が放つ凄まじい気迫に周囲の人間は圧倒されて、言葉も出ない。
「不躾な!!きさまら殿下のみならず、どなたに無礼を働いていると思ってる!?さっさと離れろ!!」
「……放してやれ」
ウォレスがカームの襟から手を放し、苦々しく命じると兵士達は私達を解放した。
王子さまは地面に降ろされた途端、カームの元へと走り寄る。
「カーム!大丈夫!?」
「うん」
こくりと頷き、ずれたフードを直すカーム。
特に怯えた様子も無く、落ち着いている。
「この方は陛下のお客人、リオネ嬢だ!先程の殿下と正賓、そしてその旅人に対する粗相は総じて厳罰ものだぞ!!」
ルークはいきまいて声を張り上げる。
……彼って、怒らせるとこんなに怖いんだ……。
「騎士団長どの、お言葉だが……」
ひるむことなくウォレスはつっかかった。
「生憎そんな話は我々下っ端には聞かされておらんですな。その客人とやらも、殿下が城から連れ出されたと仰ったので捕えただけのこと。さらに旅の男はそれを妨害したんですぜ」
「殿下が……?」
ルークが振り返ると、王子さまはうつむいた。
「……だが、行きすぎた乱暴の理由にはならん。さぁ、詰所に戻れ!!処分は追って知らせる」
ルークが急き立てると、ウォレス達は渋々引き上げていった。
「ルーク!」
名を呼ぶと、彼は私を見てほっとした表情を浮かべた。
「リオネ……大丈夫か?」
「うん。びっくりしたけど……」
「そうか、よかった……いや、すまない。俺は護衛失格だ」
その言葉に私は慌てて否定する。
「ルークは悪くないよ!勝手に一人で出歩いたのは私だし……」
「……次こそは絶対に守る」
彼は真剣な顔をしてそう告げると、王子の方へと足を向けた。
「ルーク……ごめん。僕……」
気落ちした様子で謝る王子さま。
「……殿下……」
ルークは王子さまの前に屈みこむと下から彼の顔を見上げ、その両腕にそっと触れた。
「私は殿下が街に出ることが悪いとは思いません。ただそれがお一人でだとすると話は違います。我々は殿下のお側に居なければ、お守りすることが出来ません。それに……多くの人々に迷惑をかけたこと、分かっていますか?」
「うん……」
王子さまが素直に頷くと、ルークはにっこり笑ってその肩に手を置いた。
「よろしい──それでは!」
いきなり王子の体を持ち上げ、自分の脇に抱えこむ。
「殿下!!我々がどれだけ心配して街をかけずり回ったか……!!城に着くまでは絶対に降ろしませんからね!!」
ルークは怒鳴り声を上げ、王子さまを叱りつけた。
「ルーク!降ろして!」
暴れる王子を気にする風もなく、次にルークは噴水に座るカームに声をかける。
「私は国王直属の騎士団長、ルーク・ラグニウス。巻き込んでしまって申し訳ありません。旅人にこんな醜態を見せるとは……お恥ずかしい」
カームは微笑を浮かべながら、ふるふると首を振った。
「わたしは吟遊詩人のカーム・トルバドール。平気です」
「どうやら殿下はあなたを慕っておられるようだ。どうか、今後も宜しくお願い致します」
ルークがぺこりと頭を下げると、カームもそれにならった。
「ではまた、近いうちに」
にっこりしてルークが言うと、カームも微笑み返した。
「ハイ……また近いうちに」
ルークは踵を返し、すれ違い様に私の頭を軽く小突く。
「いてッ」
「リオネ、城に帰るぞ」
「え……あ、うん」
「カーム、またね!」
ルークに抱えられた状態で、王子さまはカームに手を振った。
「またね、コルト」
カームも手をひらひらと振り返す。
──そうして、私達は広場を後にした。
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