main story
□7.永遠のひと
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「人魚の……と……は領主様に、コイツを仕留めた奴には……だ。ガキの方は丸ごと……で国王に献上する。いいな?」
身の毛もよだつ様な『人間たち』の会話が途切れ途切れに聴こえてくる。
急に静かになった奴ら。
何をするつもりなのか……容易に想像できた。
『奴ら』は僕達にひどいことをするつもりなんだ。
とても残酷なことを。
船体に体を押し付け、僕は耳を塞いだ。
「残ったはらわたは俺達で分けるが血は一滴ずつ皆に配る。飲もうが売ろうが好きにしろ」
途端に群衆は沸きかえった。
「これで俺達は大金持ちだ!!」
「骨も配れ!不死の妙薬になるぞ!!」
狂気をはらんだ歓声が指の間をすり抜け、鼓膜に突き刺さる。
自分の運命を悟った瞬間、奥歯ががちがち鳴り出した。
助けて、誰か助けて……!
サウドを探して視線をさ迷わせるが、既に彼は消えていた。
この姿に恐れを抱き、逃げ出したんだろうか。
もしくはあの群衆の中に混じり、今も恐ろしい言葉を吐いているのかもしれない。
「……カーム、大丈夫か」
絶望で目の前が真っ暗になったとき、聞き慣れた声が背後から耳に届いた。
「おにいちゃん!」
舟の陰に隠れる様に身を屈め、僕に近付いてきたのはサウドだった。
「良かった、言葉……分かるんだな。縄を外すから静かにしてろ」
唇の前に指を立ててそう言うと、僕の首にかかった縄をほどきにかかる。
「あいつら、分け前の話に夢中になってやがる。ちょっと待ってろ……今の内に逃してやるからな」
「おにいちゃん……僕のこと、怖くないの?」
恐る恐る尋ねた僕の顔を見て、サウドは小さく笑った。
「そりゃ、少しは怖いさ。でも……だからって見殺しにする訳にゃいかねぇよ」
どっと安堵の波が押し寄せてきて、僕は思わず涙ぐんだ。
「……アリガトウ」
「おい、泣くなよ!気付かれたら終わりだ」
慌てて僕をたしなめると、サウドは申し訳なさそうに呟いた。
「どうか人間を…嫌いにならないでくれよ。悪い奴らばかりじゃねぇんだ、本当は」
「……うん。おにいちゃんを見てれば、分かるよ」
そう言って頷くと、彼は安心した様に微笑んだ。
「よし、外れたぞ!早く逃げ……」
サウドが僕を立たせようとした時だった。
「おいおい……サウド、何してるんだ?」
ぎくりとして振り返ると、笑顔を浮かべた男が僕達を覗き込んでいた。
「縄を外して……どうしようってんだ?」
男の手に握られた鎌がわずかな光を受け、鈍く光る。
「別に…縄を結び直そうとしてるだけさ。逃げねぇ様にな……」
そう言いながら、サウドは僕の肩を強く掴んだ。
「カーム、逃げろ!!」
瞬間、振り下ろされる鎌をかいくぐり、僕は浅瀬へ走った。
「逃げたぞォ!!」
男の努声に、『人間達』が一斉にこちらへ顔を向ける。
「逃がすな!!」
「早く捕まえろ!!」
海が目の前に迫り、飛び込もうとした殺那──サウドの絶叫が耳をつんざいた。
おにいちゃん……!!
踵を返そうとした、その時。
「振り返るな!!カーム、振り返るな!!」
しゃがれた父の叫び声が、僕の背を押した。
海中に勢い良く飛び込み、無我夢中で水を蹴る。
幾多の銛が打ちこまれたけれど、僕はひたすら前へ前へと泳ぎ続けた。
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