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□11.霧中の楼閣
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谷底は先にも増して寒かった。
濃い霧のせいか辺りは薄暗く、俺達の頭上にかかる太陽はおぼろげな輪郭しか確認できない。
夏はこれからだというのに周囲の木々は申し訳程度にしか葉を付けておらず、土地の実りはわずかな様だった。


「閣下はこの谷一帯を治めているんだ。ご覧の通り貧しい土地だけど、海が近いお陰で我々は何とか生きている」

馬上から朗らかな笑顔を振りまきながら、コルビオは言った。

「海……」

そういえば、ここに来るまで何人か領民とすれ違ったな。
身なりは貧しかったが特段飢えている様子もなく、恭しい態度で道を譲っていた。

……どうやら、領主としては有能らしい。



苔むした石畳の道をしばらく進み、まばらな林を抜けるとにわかに前方が明るくなった。

谷が開けたのだ。

「……すげェ」

団員達から感嘆の声が漏れる。

(あれが……領主の城か)

かすみがかった谷底からでも、冷厳なその姿ははっきりと見えた。

正面に望む岩山の中腹に堂々とそびえ立つ漆黒の城。
まるで断崖の一部であるかの様に、岩棚の上からこちらを見下ろしている。


「さぁ行こう。閣下がお待ちだ」

そう言って、コルビオはにっこりと笑った。


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