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□0.王国の記憶
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0.王国の記憶


それは四十年以上も昔のこと。
二つの王国は長きに渡り戦を続けていました。

一つは大国ボルトア。
国土の七割が岩と砂に覆われた不毛の土地でしたが、そこに住まう数多くの遊牧民はとても頑丈な心と体を持ち合わせていました。彼らは、かつて幾度となく襲いくる砂嵐から何世代にも渡って家族と山羊を守り続けてきたのです。

──そして、王国アスリトニア。
この国はボルトアと比べると小さな国でしたが、豊かな大地の恩恵を受け、他国との交易により発展した商業都市から財を得ていました。
楽隊を伴い戦場へ赴く兵士の軍列、先鋒を進む騎士達の銀色に輝く甲冑。それらは子供達にとって憧れの的でした。

隣り合う二つの国は互いの領土を求めて争い、それから二十年近くもの間停戦と交戦を繰り返しながら多くの血を流しました。

アスリトニアの国境沿いでは、緑美しい村や活気にあふれた町が住民もろともに激しい戦火にまかれて消え、かろうじてユースタスという名の農村だけが残りました。

一方ボルトアが抱く広大な荒れ地には兵士達の屍が累々と転がり、川や泉は真っ赤に染まって血のあぶくが湧きました。
混沌とした戦場の影で豪商達は人狩りを行い、逃げ惑う遊牧民の娘や子供を捕らえては奴隷として叩き売ります。


まさに血で血を洗うような、そんな戦に勝利したのはアスリトニアでした。
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