main story
□3.城下町
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「隊長、見つかりましたか!」
広場から出ると、五人の騎士達が駆け寄って来た。六頭の馬を連れている。
彼らは兵士と違って輝く銀色の甲冑を身に付けていて、格好がルークにそっくり。
異なる点はルークのマントが鮮やかな青色なのに対し、彼らのそれは黒で統一されていること。
更に騎士達は頭に兜をかぶって顔を隠していた。
「見ての通り、もう大丈夫だ」
ルークの言葉に騎士達の間から安堵の声が漏れる。彼らもルークのように王子さまを街中探し回っていたんだろう。
一人の騎士が進言した。
「隊長、ポーツネルに馬を連れて来させました。まもなく到着するはずです。殿下にはそちらを」
「気が効くな、トワイライト」
満足げに微笑んだルークに、騎士は重ねて言った。
「しかし、その……申し上げにくいのですが、リオネ様の分はご用意出来ませんでした」
「え?私!?」
すっかり傍観者だった私は、話にいきなり名前が出てきて驚いた。
「あぁ、リオネか……。ユリアから外出したとは聞いてたんだが、俺もまさか殿下と一緒に居るとは思わなかったからな……」
ルークは鼻の頭をかいて、私をちらっと見た。
「……ま、いいだろ。俺の馬に乗せる」
その時、蹄の音と共にもう一人の騎士がやってきた。
自分が乗っている栗毛の馬とは別に、綺麗な白馬を連れている。
「あれ、お待ちでしたか?」
彼も兜を被っているので顔は分からないけど、若い声だ。
「ご苦労、ポーツネル。さあ殿下……城に帰りましょう」
ルークは若い騎士を労うと、不貞腐れて大人しくなっている王子さまを地面に降ろした。
「はいはい」
投げやりな返事をして、白馬にひらりと飛び乗る。
鞍は自分の頭より高い位置にあるのに、手助けを必要とせず一人で軽々と乗ってしまった。
さすが王子!
ひとり感心していたら、ルークに再び小突かれる。
「いたっ」
振り向くと、ルークは立派な毛並の黒馬を引いていた。
「ぼやぼやしてないで乗れ」
彼はそう言って馬に跨り、鞍の上から私に手を差し延べる。
その手に掴まると、ルークは力強く握って鞍の上まで引っ張り上げてくれた。
彼の前に跨る形となり、私は恐々しながら鞍につかまる。
「落ちるなよ。……さぁお前ら、城へ戻るぞ」
ルークが声を上げると、馬はゆっくりと歩みだした。
途中で更に四人の騎士が合流し、城下町の大通りを十二頭の馬が歩を進める。
「あのー……皆さんは、私を知ってるんですか?」
首をそらして、斜め後ろの騎士に話しかけてみた。
「はい、それはもちろん!城の者はみなリオネ様のことを知っていますよ」
この涼やかな声は先程トワイライトと呼ばれた人だ。
「リオネ様が城にお着きになった際、我々は入口の近くで警護もしていたのです。なのでお顔も拝見しておりました」
そうだったんだ……緊張で気付かなかった。
「俺たちは陛下の身辺警護から便所掃除まで、ご命令が下れば何でもする。なんてったって国王直属の騎馬隊だからな。陛下のお言葉がすべてだ」
私の背後で語るルークの口調はどこか誇らしげだ。
「ああ、それで王さまに王子さまを探すよう言われたの?」
「まあね」
ほんの少し振り向き尋ねると、彼は目線は前方へ向けたままに軽く頷いた。
「お前が殿下と一緒にいるとは思いもしなかった」
「うん……私も、会うとは思わなかった」
ちらっと見ると、王子さまはまだ不貞腐れているようだった。
騎士達に囲まれながら、機嫌悪そうな顔をして手綱を握っている。
「……助けてくれて、ありがとう」
再びルークを見上げてこそっと呟くと、ルークは眉根を寄せた。
「いや、あれは……」
「いいの。お礼言いたいから、言わせて」
微笑みかけると、彼はぷいと目をそらす。
「……はッ!!」
「うわっ!?ちょっと!!」
いきなりルークが馬速を上げ、私は危うく落ちそうになる。
他の馬も先頭につられて足並みが速まり、十二頭の馬たちは城を目指して疾走した。
fin.