main story

□4.夜城
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「どこへ行くんです殿下、陛下がお呼びですよ!」

「いやだ!はなせルーク!」

城へ着くなり、ルークは王子さまの襟首をむんずと掴んでどこかへ引きずって行ってしまった。

その場に残された私と十人の騎士達はしばらくそれを見送っていたけれど、やがて一人の騎士がこちらを振り返った。

「では我々は戻ります。報告がありますので」

この声はトワイライトさんだ。
彼が一礼すると、その後ろに並ぶ騎士達もそれにならう。

「あ、はい!トワイライトさん、皆さん、ありがとうございました」

私は慌てて深々と頭を下げた。
……目の前に鎧姿の騎士が十人もいると、なんだか迫力がある。

「いえ……。そう恐縮されてはかえって困ってしまいます、どうぞ私めのことはトワイライトと」

どうやら私の緊張を察したのか、彼の口調はとてもにこやかだ。

「良かったらぜひ兵舎にもいらして下さい。ご案内します!」

「分をわきまえろポーツネル!……それでは、また」

元気良く声を上げたポーツネルを一喝し、トワイライトはくるりと体の向きを変え、他の騎士達を引き連れて兵舎の方に帰って行った。




……疲れた……。

ため息をついて振り返ると、正面の大きな扉の前に見慣れた顔があった。

「ユリア!」

小走りで駆け寄ると、彼女は優しく微笑む。

「お帰りなさいませ、リオネ様」

ユリアの笑顔を見たら、なんだかほっとした。

「……ただいま」

そう言って、私も笑みを返した。



4.夜城



「陛下がリオネ様にお話があるそうです」

部屋に向かって城の廊下を歩きながら、ユリアが言った。

「へっ!?」

「ですので、御夕食は陛下と召し上がって頂きます」

「ええっ、またぁ!?」

思わず声を上げてしまった。ユリアの顔を見て、私は慌てて口をつぐむ。

今日はもうクタクタだ。早くご飯を食べてゆっくり眠りたかった。
それなのに王さまとまた食事だなんて……緊張で力尽きてしまう。

「……よろしいですか、リオネ様」

片眉を上げて、ユリアはこほんと咳をした。

「リオネ様は陛下のお客様です。ですから、私どもがもてなすのはごく自然なことで、更に陛下が直々に……」

「はい!分かってます、すみません!」

私が情けない声を上げるとユリアはにっこり微笑み、
「分かって下さったのなら良いですわ」
と満足そうに頷いた。

自室に戻ると、部屋の中央には美しいドレスが侍女達の手によって用意されていた。

正面から見ると一見シンプルなワンピースの様だけれど、背面にまわると腰の部分にはふんわりとした大きなリボンが結われ、薄紅色の絹布に細かな宝石が縫いつけてある。
華美すぎず、けれどもとても品のある衣装だ。

「うわぁ……。私、こんなにすごいものを着るんですか?」

「ええ。陛下との晩餐ですから」

入浴後ユリア達に手伝ってもらってドレスを着て、髪まで結い上げてもらい、やっと支度が終わった。

「とてもお似合いですわ」

満足気に微笑むユリアに対し、私は不安が隠せない。

「そう?本当に大丈夫?少しは垢抜けて見えるかな……」

何度も確認の言葉をこぼす私に構わず、ユリアは思い出したように手を打った。

「あら、もうこんな時間!陛下がお待ちですわ!案内致しますのでお急ぎ下さい!」

そうして、私は以前王さまと朝食をとった広間へと通された。



彼は既に席に着いて私を待っていた。

「遅かったな……ユリアめ、リオネの支度に力を入れて私の胃袋のことは考えなかったのだな」

「す、すみません……」

「謝るな。悪いと思うなら早く座ってくれ。空腹で今にも倒れそうだ」

王さまは苦笑して私に椅子をすすめた。


食事中は様々なことを聞かれた。
親や出身地のこと、シャムール一座のこと、団長のこと。
親や生まれを聞かれても、孤児だった私に答えるすべは無かった。
けれどどうやら王さまと団長は旧い頃からの親友で、なんと団長は王家とは縁の深い貴族の嫡男らしい。
なぜ地位を捨て故郷であるアスリトニアを出たのかは教えてくれなかったけど、代わりに団長の若い頃の話……特に恋の失敗談など──を沢山話してくれた。


「ところで……城下町でコルトに会ったそうだね?」

食事が終わると、唐突に王さまが口を開いた。

「はい」

「ラグニウスらの報告では、コルトの言動のせいで君が危うく連行されそうになったと聞いたんだが」

先程までの柔和な顔つきはどこへやら、テーブルの向こうから王さまが厳しい顔をして私を見る。
その目つきの鋭さに、嘘や冗談は通用しないことを悟った。

「……はい。でも……」
「ラグニウス!」

私の言葉を遮り、王さまはルークを呼んだ。

「陛下、お連れしました」

(ルーク!それに……)

広間に入ってきた彼の背後には、王子さまの姿があった。

「コルト、来なさい」

王さまは椅子から立ち上がると、息子を自分の元に呼んだ。


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