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□5.原罪
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「王子さまが風邪?」
リオネはナイフとフォークを握ったまま振り返った。

今はユリアに食事作法を教わっている真っ最中だ。

昨夜、近衛兵に送られて部屋に戻ってきたリオネはユリアにこっぴどく叱られてしまった。
本当に心配していたらしく、その剣幕といったら激しいものだったが……今朝になると普段の彼女に戻っており、リオネは内心ホッとしていた。
リオネの背筋を正しながら、ユリアはため息混じりに頷く。

「昨夜の御夕食後、殿下は中庭に長くいらっしゃったそうで……今朝になってお風邪を召された様です。あまり高い熱が出なければ良いのですが……」

「そう……大丈夫かな」

リオネの脳裏に、昨夜のコルトの姿が浮かんだ。

私が口を出せる立場では無いんだろうけど……それでも、一言さえかけられなかったことが悔やまれる。

「大丈夫でしょう、この城には名医師のガルニエ様がついていますから」

ユリアは彼女を元気付けるように微笑み、それから首を傾げた。

「それにしても、ラグニウス様が殿下と共にいらっしゃったはずなんですが……一体どうしたんでしょう」



5.原罪


「私めがついていながら……申し訳ありません!」

ルークは玉座の前で跪き、床に額が着くほど深々と頭を下げた。

「……もういい、ラグニウス。頭を上げよ。ガルニエからはそう重いものではないと、ここに書かれているぞ」

そう言葉を返したアルトアの視線は、手の中の診断書に落としたままである。

「しかし……」
「今回の件でお前に責を負わせる気は無い。話は以上だ」

アルトアは話は終わりだと言う様に手を振った。

「……どうか、殿下の元へ」

その言葉にアルトアはぴくりと眉を動かして、目線を書類からルークへと移した。

「どういう意味だ?」
「殿下は寂しがっておいでです」

ルークはすがるような表情でアルトアを見上げる。

「どうか、一目だけでもご寝所へ」

アルトアは脇に立つ書記官をちらりと見やった。
その腕に抱えられた分厚い書類の束が、今日この日のうちに処理せねばならない仕事の量を物語っている。

「……難しい話だな。今日はことさら忙しい」

普段の政務に加えて、アルトアのもとにはさらに多くの案件が届いていた。
皮肉なことに、その内容というのも昨日コルトが城下町にて起こした騒動によるものが殆どであり、アルトアはこれから後始末に追われることになる。

「陛下、しかし……!」

食い下がるルークをちらと見てから、アルトアは再び診断書に目を落とした。

「努力はしてみよう。……だが、コルトにはお前がついている。……頼りにしているぞ、ラグニウス」



***


コルトは熱の所為でうなされていた。

ごめんなさい

ごめんなさい

夢うつつに、自分が泣き叫ぶ声が聴こえる。
現実なのか幻か……区別がつかない。
頭の中で、何度も繰り返されるその言葉。

ごめんなさい
ごめんなさい
どうか許してください

コルトの意識がとび、記憶の断片が呼び起こされる。


……あれは、コルトの祖母が存命であった頃だ。
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