main story
□7.永遠のひと
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「そしてこの国に来て……城下町で初めてきみを見たとき、母に似ていると思った」
「………」
「………」
カームが話し終えても、私とコルトは何も言い返さなかった。
いや、正しく言うと──言い返せなかった。
私達が思いつく限りの慰めと同情の言葉をもってしても、彼に課せられた苦しみの前には無意味だった。
……到底及ばない。
時に言葉は何の役にも立たないことを、私は初めて知った。
頬を涙が伝い、膝に置いた握り拳の上にぽとぽとと落ちる。
コルトはこちらに背を向けたまま、身じろぎ一つしない。
窓の外、断崖に砕ける波しぶきから私へと目を移し、カームは驚いた様子で首を傾げた。
「リオネ?」
「どうして……人を、嫌いにならなかったの?」
涙を拭って尋ねると、彼はあぁ、と言って微笑んだ。
「悪い人ばかりじゃない、そうだろう?だから昔も今も……人が好きだよ」
「………」
私は思わず立ち上がり、小さなテーブル越しにカームを抱き締めた。
勢い良く立ったせいで椅子が倒れ、しんとした部屋に耳障りな音が響く。
それに構わず、私は彼の背に回した腕にいっそう力をこめた。
「……苦しいよ、リオネ」
胸の中でカームが呷いたけれど、私は離さなかった。
何も言わず、小さくすすり泣いた。
「リオネ、泣いてるの?」
カームは大人しく私に抱き締められたまま、くぐもった声で尋ねる。
「……そうよ」
部屋の隅からしゃくり上げる声が聴こえ、コルトも泣いているのだと分かった。
「そうか、リオネは泣いてるのか」
ひとり納得したかの様に、カームは頷く。
「そうよ」
私が頷き返すと、カームは優しく呟いた。
「──泣いて、くれてるんだね」
「ごめん、カーム。私……何も言えない。何もしてあげられない……」
そうささやくと、カームがかぶりを振るのが分かった。
「君たちが泣いてくれただけで、十分だ。ありがとう……リオネ」
永い、永い孤独。
人の世は彼を残し、通り過ぎていく。
それがどんなに辛いのか、私達には分からない。
それきり私達は黙りこんだまま、静かに涙を流した。
fin.