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□9.歯車
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火薬の微かな臭いが風に混じって鼻をさす。
煙草とは違う、この血なまぐさい臭気をかぐのは……リオネを拾った、あの時以来だ。

「いよいよですね、団長」

「あぁ。……気ィ抜くなよ」

背後に立つ手品師のトイと静かに言葉を交わし、団長──シド・ミッドバレイは丘の下に広がる景色を見下ろした。

「いつ来ても変わらねェな……この国は」

むき出しの岩肌にわずかな草がしがみつく、広大な荒れ地。
それが大国ボルトアの風景だった。



9.歯車



肥沃な大地と優れた交易力を持つアスリトニアに比べ、ボルトアの土地は大半が痩せこけ耕作には向かず、また古典派の王族によって国交は限られていた。
その体制は反乱が起こってからというもの、より厳重になったらしい。

旅芸人は勿論のこと身元が明確でなければ誰一人として入国許可は下りなかったが、アスリトニアとボルトアは互いに不可侵条約を結んでいることもあり、シドはアルトアからの紹介状を用いることで審査を無事切り抜けることが出来たのだった。



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