main story

□1.登城
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数日前のこと。


***


「ええっ、そんな!」

シャムール一座のテントの中に、不満の声とどよめきが波となって響き渡った。

「次はボルトア王国で公演ですか!?あそこは今、国王軍と反乱軍とで内戦の真っ最中ですよ!危険すぎます!」

手品師トイが声を張り上げると、シャムールの団員達は皆そうだと言わんばかりに大きく頷いた。

「俺だって、そんな危ない場所にお前達を連れて行きたいわけじゃない……」

深いため息とともに言葉を返したのは、曲芸団シャムールで私を含め数多くの団員をまとめる我らが団長だ。

手には愛用のシルクハットが握られていて、白い手袋に覆われた長い指が帽子のつばをゆっくりとなでている。

──みんな知らないようだけど、これは団長が何かを企んでいるときの癖だ。

団長はいぶかる私の隣で再びため息をつくと、公演を断固拒否する何十人もの団員を力ない目で見回した。

「……しかし客の多くは村人や遊牧民、つまり非戦闘員だ。彼らは夜通し反乱軍の襲撃に怯え、戦火からひたすら逃れる毎日……。娯楽や安寧とは程遠い。実に悲しいことだと思わないか?」

団長の言葉にテントの中は急にしいんと静まり返り、先程まで反対派の第一人者だったトイまでも、鼻をすすっている。

……この空気はなんだろう。

思わず眉をひそめる私。
次の瞬間、団長はいきなり声を張り上げた。

「そんな絶望の淵にいる彼らを、俺たちの芸で励ますことができるのなら!」

皆が団長の一挙一動に注目する。

「我々は行くべき、いや行かなくてはならない!!」

「オォーッ!!」

何十という拳が天に向かって突き上げられ、次いで巻き起こる歓声と拍手。

「俺、団長にどこまでもついていきます!!」
「絶対に笑わせてやりましょう、団長ー!!」

嫌な予感はまさに的中してしまった。
まったくこの一座は……お人好しな人間ばかりだ。

「というわけでニオとリルケ達は荷馬車の準備、トイ達は荷物の梱包、残りはテントの解体……」

途端に元気になった団長は笑顔を浮かべ、てきぱきと仕事を割り振り始める。

「………」

呆れてその場を立ち去ろうとする私を、団長は「そうだ」と呼び止める。

「リオネ、お前と何人かの奴らは留守番だからな」

「えっ?なんでですか?」

私は驚いて団長を振り返った。
公演をするのに団員を置いていくなんて……今まで無かったのに。

「内戦のせいでボルトアのあちこちで賊が悪さしているらしい。こっちは大人数だが女や子供も多いし、武器を持って来られたら敵わない。野郎共のみで、尚且つ人数が少ない方が移動も早いし安全だ」

団長の顔は真面目そのもので、本気で心配しているみたいだ。
……きっと、ボルトア国内はかなり危ない状況なんだろう。


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