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□3.城下町
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「リオネは買えないのだから、僕が買っても文句は無いだろ?」
「え……ああ、はい……」
私をちらっと見てから、おじさんは軽く頷いた。
あまりに予想外な客に、驚きを隠せないでいる。
「いくら?」
冷や汗をかいている彼に対し、王子は涼しい顔で懐から銀糸織りの財布を取り出した。
「ええと、18アルス……」
「はい、50アルス。お釣りはいらないから」
彼の手に2枚の銀貨を渡し、屋台のカウンターからペンダントをひょいっと拾い上げる。
「あ……そうだ」
王子は何かを思い出したかの様に私を振り返ると、耳打しようと背伸びして顔を近付けてきた。
「な、何でしょう……」
「あのね、リオネ……」
「………?」
「ざんねんでした!」
「うひゃっ!?」
思わず声を上げてしまった。
王子は私の耳元で囁くと同時に、いきなり耳たぶをぺろりと舐めたのだ。
一瞬パニックになった私を見上げて王子は楽しそうに笑い、身を翻して店から出ていった。
──なに今の!?
私は訳が分からず、ただただ呆然としていた。
「……また殿下の『お散歩』か……」
ぼそりと呟きため息をつく店主に、私は食ってかかった。
「何なんですか、今の!わざわざ目の前で横取りなんてひどい!しかもあの態度!!」
「さぁてね……王族の考えとる事なんぞわしらには分からんよ。殿下はちょくちょくああやって街に下りて来るのさ」
彼は更に深くため息をついた。
「いつもはわしの店なんぞ見もしないで行ってしまうからな……初めてのご来店で焦ったよ」
それにしても、と言葉を続ける。
「将来は王となって国を背負うってのに、あんな調子で大丈夫かねぇ……。アルトア陛下がご立派なだけに、民はみんな心配しとるよ」
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