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□4.夜城
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「……はい」
彼が近寄った途端……国王の容赦ない平手がとび、王子さまは打たれた方向によろけた。
「お前には失望した。この国の王となる者はもう少し賢いと思っていたが、違っていたようだ」
広間中が水を打ったように静まりかえり、私も目の前の光景に硬直する。
……皆の見ている前で、王子さまの左頬がみるみる真っ赤に腫れ上がっていく。
「しばらく私室から出ることを禁ずる。そこで王位継承者としての立場と身の振り方を一から考え直せ」
その言葉に、王子の顔色が変わった。
「僕は、別に……!」
目を見開き父王を睨み据え、絞り出すように言う。
「王になんかなりたくない……国の統治なんかしたくない!望んで王の子供に生まれたわけじゃない!!」
最後の言葉は怒鳴るようだった。
アルトア国王はそれを静かに受け止めていたけれど、やがて穏やかに、諭すように言った。
「そう思わぬ王などこの世には居ない。王の子として生まれたからには、己の運命を受け止める他に方法は無い。潔く諦めなさい」
「………」
押し黙る王子さまから目線を外し、国王は私を見た。
「リオネ、見苦しいところを見せてしまったね。今日はもう失礼する」
そう言うと王さまは息子の脇を通り過ぎ、広間から出ていってしまった。
数人の近衛兵が彼に従い、立ち去っていく。
その場にひとり残され、立ち尽くす王子さまは泣きもせずただ無表情で……何を思っているのかは推し量れない。
残された者達は凍ったように微動だにしなかった。
「……殿下、部屋に戻りましょう」
最初に動いたのはルークだ。
王子さまに歩み寄り、小さな背中にそっと声をかける。
「殿下……」
「一人で戻れる」
ルークの方を見ず静かに答えると、王子さまは踵を返して父親の後を追う様に広間から去っていってしまった。
「……したい事も沢山あるだろうに。生を受けた瞬間から、全て決まってるなんて……」
ルークは王子が消えた扉を見つめ、肩を落とした。
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