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□4.夜城
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「……コルトを変える?」
王さまは面食らって聞き返した。
「はい!私がずっとついて、イタズラや嘘をつかないように監視します!」
元気良く言うと、彼はいきなり吹き出した。
「はははっ、そう来たか!!」
「へ、陛下?」
予想外の反応に、今度は私が呆気にとられる。
「ハハ……ゴホン、失礼。……リオネ、きみがかい?」
「そ、そうですけど……」
私、まずい事でも言ったかな。
王さまはテーブルに頬杖をつき、クスクス笑いながら私を見た。
「……分かった、任せよう」
「本当ですか!」
思わず笑顔になる。
──しかし、彼が次に言った言葉で私は凍りついた。
「ルークを始め、今まで多くの精鋭兵に従者や教育係をやらせたが……全員徒労に終わった。中には自主退役した者もいる。だがリオネならきっと結果を出してくれるだろう」
「え……」
自主退役!?何それ!!
「良かった、これでアスリトニアは安泰だな」
「ちょ……!」
慌てる私に構わず、王さまはにっこり笑った。
「リオネ、コルトがどう変わるか楽しみにしているよ」
……ちょっと待って!!!
***
「……あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
王さまの部屋から出る前に、尋ねてみた。
「何だね?」
アルトア国王は首を傾げる。
「どうして、新しい王妃さまを迎えないんですか?」
初めてこの城に上がってから、ずっと奇妙に思っていた。
普通……王族って血を絶やさない為に王妃や寵姫を何人も抱えているものだ。
どうしてこのお城には王妃が居なくて、たった一人の王子しか居ないんだろう?
「……ああ、そのことか」
王さまは優しく微笑んだ。
けれど、それはどこか悲しい。
「別に、深い意味は無いよ。私は国王だが父親でもある。今でも妻を愛していて……子供もコルトだけでいい。私にとってあの子は命よりも大切なんだ。彼女の忘れ形見でもあるし」
「それに」と王さまは付け加える。
「それに……私はコルトに、他に候補者が居るからと王位から逃げるようなことはして欲しくない。だからコルト以外の子供は必要無いんだよ」
まただ。王さまの穏やかな表情は、子を思う父親のそれだった。
素敵だな……こんなお父さんが居たら。
「そうなんですか……。教えて下さってありがとうございます」
ぺこりと軽くお辞儀して顔を上げると、王さまが私を見つめていた。
「……陛下?」
黄褐色の瞳は深い悲しみをたたえていて──視線は私に向いていたけれど、見ているものはどこか遠くにあった。
「……陛下」
もう一度呼ぶと、王さまははっとした表情を浮かべた。
「いや……何でもない。さぁ、もう帰りなさい。明日のために寝なければ」
王さまは無理やり笑顔を作ると、扉を開けた。
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