main story
□6.不穏
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コルトの風邪が無事治り、彼とリオネは共に城下町へ遊びに出ることとなった。
本当は大事を取って休んだ方がいいとルークに言われたのだが、コルトはがんとして拒否した。
「早くリオネ!先に行くよ!?」
所持金をアスリトニア貨幣に両替してもらい、準備は万端だ。
「ユリア、行ってきます!あっこら王子さま、走らないで!」
「『王子さま』じゃないってば!」
「殿下、お気をつけて!リオネ様、宜しくお願いします!」
城門の前に立ち、城下町へと駆け下りて行く二人に手を振るユリア。
「……さてと。もう行きましたよ」
くるりと振り返り、門の陰に声をかける。
「おう。じゃあそろそろ俺達も行くか」
「はい」
伸びをしながらルークが出てくる。その後からトワイライトも続いた。
リオネ達に気付かれないよう護衛する為、現在二人は私服姿だ。
「まぁ二人とも、これなら絶対気付かれませんわ!」
安っぽいシャツを着たルークと全身黒ずくめのトワイライトを見比べ、ユリアはにっこり笑う。
「ははっ、そうだろ!」
「元諜報部の一員だった私には当然ですね」
自慢気に笑う二人。
(やっぱり甲冑を脱いだとたん、お二人は地味になりますわね……)
顔には微笑みを浮かべながら、ユリアは心内でこっそり呟いた。
***
お昼が近い時間のせいか、通りには多くの人が行き交っている。
仕入れた野菜や果物を叩き売りするおばさんや、腕を組んで宝石商を見て回る恋人たち。
立ち並ぶ屋台からは甘い香りが漂い、子供たちが行列を作っていた。
「リオネ、早く行こうよ!」
コルトは周囲に目もくれず、私の服をぐいぐい引っ張る。
「ちょっとコルト……そんなに急がなくても!」
一体どこに行く気なんだろう。
あまりに強い力で引いてくるので、服が破れやしないかと内心ヒヤヒヤする。
「なに言ってんの、急がないと帰る時間になっちゃうだろ」
口を尖らせるコルト。
ついさっきお城を出てきたばっかりだけど……余計なことは言わないでおこう。
今までと違い、堂々と城下町に来れたことが嬉しいみたい。
コルトに導かれた先は例の広場だった。
ぐるりと周囲を見渡して、彼は首を傾げる。
「あれ……カーム、何処にいるのかなぁ」
「それって……あの吟遊詩人のひとね」
広場にはそれらしき人影は見当たらない。
「そう。会いたいのになぁ……」
うーん……なんだかちょっとだけ複雑。
コルトはカームを凄く慕ってるし、遊びたい気持ちは当たり前だろうな。
だけど……もしかしたら、私だけ蚊帳の外になりそうな気が……。
(でも……王子さまがイタズラしないようにするのが当初の目的だし。王子さまが楽しければそれで良いんだよ、うん)
私は自分にそう言い聞かせる。
「どんなことして遊ぶの?」
……妙な遊びは止めないと。
コルトはきょとんとして、少し困った様に頭をかいた。
「えー……分かんないよ。だって三人で遊ぶのは初めてだし」
あ……私のこと、ちゃんと数に入れてくれてる。
そんな些細なことが、何だか嬉しい。
「とにかくリオネも一緒なら、きっと何しても楽しいよ!」
極めつけに向けられた、無邪気で屈託の無い笑顔。
──不意に使ってくるのは反則だと思う。
「そ、そうかな……」
どうか顔が赤くなっていませんように。
「でもカームっていつも街をフラフラしてるから、見つけるの大変なんだよね……」
私の思惑など気付きもせず、腕を組んで顔をしかめるコルト。
「リオネ、手分けして探そうよ」
「えっ」
思わず嫌そうな声を上げてしまった。
だって……離れてる間にコルトが悪戯したら、どうしよう。
「嫌なの?」
眉をひそめるコルトに、私は慌てて否定する。
「そういうわけじゃないけど……」
「リオネだってカームと遊びたいでしょ?」
「うん、それはまあ」
すると途端に彼は笑顔になる。
「良かった、じゃあリオネはあっちね!通りの行き止まりで戻ってくればいいから」
「え、あっコルト!」
走り去ろうとした王子さまを、私は呼び止める。
「ちょっと不安だから……急いで戻って来てね」
彼が何かイタズラする前に、早く合流しないと。
「大丈夫だよリオネ。僕が守ってあげるから」
笑顔でそう言って、コルトは再び去って行った。
そうじゃないんだけど……まあいっか。
私って本当、王子さまの笑顔に弱いなぁ……。
私は大人しく、カームを探す為に踵を返した。
***
その頃、ルークとトワイライトは街の人々に捕まっていた。
「あれ〜、よく見たら隊長さんじゃないの。今日はお休みかい?この野菜持ってきなぁ」
「いえ、今は任務中ですので……」
「あらあら騎士さんが二人も揃っちゃってまぁ!ちょっと見てってよ、特別に安くしとくから!」
「お、お気持ちは有難いのですが……」
──そうこうしている内に、二人はリオネ達を見失うのだった。
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