main story
□5.原罪
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コルトは祖母が嫌いだった。
祖母――フェリスはかつては心優しく芯の強い女性だったというが、夫である前国王が戦死して以来、彼女は変わってしまった。
偏屈で棘のある言葉ばかり吐き、下の者をこき使い……孫のコルトに対してでさえ、その視線と口調にはいつも蔑みが潜んでいた。
何の話をしているのか気になって、コルトは声が聞こえてくる部屋の前に立った。
扉はぴたりと閉じていたが、耳を澄ますと会話を聞き取ることが出来る。
どうやら、話をしているのは祖母と父らしい。
「お言葉ですが母上。ランジュは我々と同じに、この国を深く愛していました」
アルトアの声は普段と変わらず、優しくて静かだ。
「そうは言ってもたがが捕虜でしょう。ボルトアで捕まっていたのをお前が連れて帰ってきただけで、どこの出身かも分からぬ卑しい女よ」
「それは……仕方のないことです。彼女はショックで記憶をほとんど無くしていたのだから。私が思うに、恐らくボルトアに迫害されていた遊牧民ではないかと」
「遊牧民族!おぉ嫌だ、お前はそんな浅ましい女と睦いだのですか!?」
フェリスのひきつった声が耳を刺し、コルトの背筋に寒気が走った。
何だかこの話を聞いてはいけないような気がする。
しかし足は凍りついた様に動かず、二人の会話はコルトの耳に響き続けた。
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