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□7.永遠のひと
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***


それから僕は、ずっと海をさまよった。
何年も、何十年も──正確な時間は分からない。
陸には決して近付かず……人間が居そうな場所は極力避けた。

もしかしたら他の人魚に会えたのかもしれない。
だけどその頃の僕には、探す勇気が無かったんだ。

やがて僕のウロコも少しずつ消えていったけれど──僕は『人間』にも『人魚』にもなれなかった。

その姿は本当に、どちらにも属していなかったんだよ。



母が父と子を成した様に、人魚には人間へと姿を変える力があるらしい。
恐らくそれは本来、身を守る為の力なんだろうけど……父とサウド達の身を案じていた僕は、人の姿でセニンシュラに再び戻ったんだ。


ところが……セニンシュラの町は既に廃虚と化していた。

人魚の血肉は猛毒。
多くの住人が倒れ、国王の怒りを買い……町は何十年も前に潰されたという。

ハプトとサウドの行方は分からなかったけれど、父の墓が丘の上に立っていた。

店に残されていた楽器を両親の形見に、僕はその町を出た。



──それから僕は旅を続けている。
年をとらない僕が、一つの場所に留まるわけにはいかないからね。

「歌声は精霊を恋に落とし、奏でる音色は草木をも眠らせる」

あまりに永い間生きてきたせいで、そう言われるにまでなった。

恐らくカーム・トルバドールという人物は彼らの中で、「歌の上手い一族に共通する名前」とでも位置づけられているんだろう。

──人々は僕のことを何も知らない。

だけど僕はもう、自分の為には何も望まない。
何も欲しくない。

僕は今までもこれからも……ただひたすら世界中をさ迷い、彼らの傍に寄り添って生きていく。

分かるかい、リオネ。
僕にはそれだけで十分なんだ。


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