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□7.永遠のひと
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「あの子は……自分が人間だと疑ってない。俺のことも祖父か何かだと思ってる。だが見ての通り、あの子は恐らく人よりも人魚に近い。いつかは死ぬのかもしれんが…何百年後になるか。
セシリアが俺の子を孕み、それがばれて同族の人魚達に殺されかけた時……俺があの子を育てると誓っちまった」

「それならこのまま人間として生きて行かせるべきだ!」

ハプトが険しい顔をして鋭く口を挟んだ。

「人魚どもはあの子を殺そうとするかも知れんぞ。お前、それでも別れるつもりか?」

ヘルマンはグラスを傾け、残ったブランデーをごくりと飲み干す。

「……人魚の多くは残酷だが、同族には寛容だ。だが人間は……カームの体に半分でも人魚の血が流れていると知れたら、すぐに殺そうとするだろう。だから俺は五十年間、当ても無く旅を続けてきた。しかしそれも限界だ。もう、俺の体は……」

ヘルマンは言葉を切り、口元を手で覆って激しく咳こんだ。
手のひらを開けると、赤黒い血がべっとり付いている。

「……もういい、何も言うな」

ハプトは顔を歪ませ、グラスに残った酒を胃に流し込む。
──なんて不味い酒だ。

「すまないな……ハプト」

そう言って微笑み、ヘルマンは唇に付いた血を拭った。



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