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□9.歯車
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***


日暮れ時、立ち枯れた林の脇にテントを張り、シャムール一座の男達は焚き火を中心に円となって顔を合わせた。

「ネージュが指示を持って帰ってきた」

男達をぐるりと見回し、アルトアからの文を手にしたシドが口火を切る。


ネージュというのは、トイが可愛がっている銀鳩の名だ。

表向きは手品用の鳩としているが実際はアルトアとシドの間を行き来する伝書鳩としての役目を負っており、先ほど日暮れ前にアスリトニアから戻ってきたばかり。
今は飼い主の肩の上で純白の羽根を休めている。


「それで……国王は何と?」

団員の一人が促すとシドは警戒する様に辺りを見回し、声を低めた。

「王は諜報員をもう一人、こちらに寄越すつもりらしい。どう使うかは俺に任せると言ってる。文からするに俺の知らない奴みてぇだが……別途、王家の内情を探ってもらう」

「俺たちはこれからどうします?」

肩の上のネージュを撫でながら、トイが尋ねる。

シャムールの団員たちはみな固唾を飲んで次の言葉を待った。

「……あぁ、もう決まってる」

焚き火がはぜ、ぱちりと乾いた音を立てる。

「俺達はこのまま戦地に向かう。道すがらの興行は無しだ。尻尾を掴まれる前に手早く済ませる」

シドはそこでいったん言葉を切った。
灯火が風で揺らめき、眉間に刻まれた深い皺を厳かに照らし出す。

「いいかおめぇら、失敗すれば俺らが死ぬだけじゃ済まねェ……気合い入れろ」

「…………」

その場にいた誰もが口を開かない。
──けれど、胸中の想いはみな同じだった。



分かってるよ、団長。
俺たちはアスリトニアの諜報員だ。

だから何でもしよう。

生きる場を与えてくれた、あんたとアスリトニア王家の為に……。



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