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□絶対命令。(前/★)
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「……は?」

陛下の言葉を理解するのにずいぶん時間がかかった。

「今、何と?」

自分の聞き違いであって欲しいと心から願いつつ、もう一度聞き返す。
すると陛下はため息をつき、面倒臭そうに繰り返した。

「だから、私の恋人になれと言っている」

「……はい!?

身を引いて逃げようとしたが、時既に遅し。
陛下の手は俺の肩をがっちり掴んで離さなかった。

「待て待て、ルーク。話を最後まで聞け」

きわめて穏やかな口調でそう言うと、陛下はずる賢く笑った。

「私に男色の気があると思わせるのだ。聞いたところによると姫は男色を忌み嫌っているらしい。彼女の前で私達が恋人同士であるかの様な振る舞いをすれば、いやでも諦めるだろう」

「な、なるほど……」

思わず感心したが、だからと言って……俺がその役を請け負うのか?

「いかがでしょう……他の者に任せては?」

すると陛下は途端に不機嫌な顔をした。

「なんだ貴様、主君の命令が聞けぬのか?」

「それとこれとは話が違う」と喉まで出かけた言葉をぐっと飲み込み、俺は弱々しく頷いた。

「仰せのままに……陛下」



心臓はどくどくと脈打ち、熱でもあるかの様に顔がほてる。
俺達は床に腰を下ろし、静かに向かい合った。

「──ではまずは、口付けの練習だ」

「へ、陛下!?」

俺の顎に手を添え、いきなり口付けようとしてきた陛下を反射的によける。

「何だ、何かあるのか?」
『練習』を遮られ、陛下はムッとした様子で俺を見た。

「その……歯を、磨いていないので」

口をついて出たのは苦し紛れの言い訳。
陛下は鼻で笑いとばした。

「気にするな。いいから続けるぞ」

そう言うなり、真面目な顔をして俺の胸ぐらを掴む。

切れ長の瞳が俺を捕らえ、鋭い眼光が突き刺さる──

「陛下!」
近付いてきた顔を思わず手のひらで止めてしまった。

「何だ、ルーク!!まだ何かあるのか!?」

陛下は噛みつく様に言って、俺の手を無理やり払いのける。

「その……心の準備が……」

ごちゃごちゃ言うな!!

次の瞬間、乱暴に唇を塞がれた。

「ん───っ!!」

ばたつかせた手足はすぐに押さえこまれ、俺は床に組み敷かれる。

「んんっ、んーッッ!!」

陛下は眉ひとつ動かさず、俺を羽交いじめにしたまま荒々しい口付けを続けた。



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