another story
□いつか、誰かが。(★★★)
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イベルトは寝ていたベッドから弾ける様に飛び出し、部屋の隅にある洗面台まで駆け寄ると胃の中身を全てぶちまけた。
「──ゥグッッ!!」
鼻腔をつく胃液に涙腺が緩む。
……しかし、涙の理由がそれだけではないことも彼はよく分かっていた。
──いい加減に忘れろ。
何年前の話だと思ってる。
今のような醜態は一度や二度ではない。
しかし悪夢から覚めて嘔吐するたび、自分の弱さが目の前に突きつけられる様だった。
……馬鹿ばかしい。
ただの夢だ。
口元をすすぎながらそう自分に言い聞かせる。
ところが上体を起こそうとして、膝がかくんと折れた。
バランスを失ったイベルトは洗面台に額を打ちつけ、その場に尻餅をつく。
呆然として視線を下げると、闇の中で両膝がガクガク震えているのが分かった。
「ふ……はは、はははっ」
──なんてざまだ。
「ハハ、ははははっ」
悲痛な笑い声を上げながら、イベルトは顔を覆ってすすり泣いた。
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