螺雛
□花菖蒲
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シトシトと雨が降り続ける季節になってもうもう1週間はたっただろうか。
久しぶりにお天道様が雲の合間から姿を現していた。
日向家では、この短い晴れ間に出来ることをしておこうと、使用人たちが忙しなく働いていた。
もちろん自分も使用人の一人で、晴れた日にしかできない庭の手入れを行っていたのだが、
ふと庭の隅のとても小さな一角に目を惹かれた。
そこは畳半畳ほどしかない花壇で、
木の葉一族として、代々守りついてきた土地の広さを考えると、
とても申し訳ないほどのものだった。
しかし、その花壇には鮮やかなほどに花菖蒲が咲き乱れていた。
「騎士の花」と呼ばれるに相応しい、一輪一輪が凛としており、
白と紫を主とした花びらが、花壇一面に堂々と彩っていたのだ。
「ああ、とても綺麗に咲いていらっしゃる・・・」
呟きながら、その花壇に近づくと、昨夜まで振っていた雨の名残が花びらの上を雫となって流れていた。
そこに光が差し込むと、キラキラと周りまで星を散りばめる。
思わずその美しさに見惚れ、その場にしゃがみこんでは、その幻想的な世界を眺めていた。
ふと、そこに細長い影がかかる。